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title.gif (1997 バイト)

No.506                     酒井ITビジネス研究所  酒井 寿紀                      2005/10/21


IT株は、やっぱり海外?

 

海外企業に牛耳られているIT市場

IT株にもいろいろあるが、大きく二つに分かれる。第1に、コンピュータやネットワーク機器のメーカー、ソフトウェア・ハウス、通信業、システム・インテグレータなど、ITの基盤を提供する事業がある。第2に、有料コンテンツの提供、広告料を収入源とする無料コンテンツの提供、物品販売、オークション・サイトの運営など、インターネットを利用した各種の商売がある。

後者のITを利用する事業では、ヤフー!のようなポータルサイト、楽天のようなショッピングモール、あるいは、インターネット広告の代理店、ネット証券など、日本にも、日本の市場を対象にして、立派にビジネスを立ち上げた企業が多い。

しかし、前者の、IT関連の製品やサービスの提供業はどうだろうか? 

ハードウェアの根幹はインテルのLSIに押さえられ、ソフトウェアの市場はマイクロソフトに牛耳られている。また、通信機器はシスコ・システムズが圧倒的に強い。携帯電話が急速に普及した20世紀末には、携帯電話では日本が一番進んでいるので、21世紀は日本の世紀になると言われていた。1) ところが現在、全世界の携帯電話機の生産は、1位がフィンランドのノキア、2位が米国のモトローラ、3位が韓国のサムスンで、上位6社で約80%を占め、その中には日本のメーカーは1社もない。(ソニー・エリクソンは除く)携帯電話の世界で、世界のトップグループに入る日本の企業は、NetFrontというブラウザを提供しているACCESSぐらいだ。

目を転じて、最近新しい動きが活発な無線通信の世界を見てみよう。

近年、WiMAX(ワイマックス)という、現在の無線LANより高速で、通信距離が長い無線通信技術が脚光を浴びている。2) このWiMAXに対応した機器を開発している企業の一つであるエアスパン・ネットワークスは、本社はフロリダ州のボカ・ラトンにあるが、イギリスに開発の主要拠点を持つ、売上高1億ドル程度の企業だ。もう一つのアルバリオンという会社は、売上高2億ドル程度のイスラエルの企業である。両社ともNASDAQに上場している。

また、最近、屋内では無線LANで安いIP電話が使え、屋外では通常の携帯電話として使える、デュアル・モードの携帯電話の普及が始まろうとしている。3) こういう携帯電話の標準規格であるUMAを提唱している14社の中心になっているのは、キネト・ワイアレスという、2001年に設立された米国の企業である。この会社は非上場だ。

そして、現在審議中の次期無線LANの規格案の一部を先取りして製品化した企業が現れている。4) その良し悪しは別として、こういう半導体を販売している企業の一つは、1998年に設立された、アセロスという、売上高が2億ドルにも満たない米国の企業だ。同社はNASDAQに上場している。また、2002年から活動を始めた、エアゴーという米国の非上場会社も、同様の半導体を販売している。両社とも製造設備を持たないファブレス企業である。

このように、新しい通信の市場で活躍しているのは、みんな海外のベンチャーだ。

なぜ日本勢はダメなのか?

日本で新しいITビジネスがなかなか立ち上がらないのはなぜだろうか? 米国に比べ、ベンチャー・キャピタルの市場規模が小さいためだとも言われる。また、リスクを冒して挑戦し、一度や二度の失敗は許して再起を促す、チャレンジ精神に欠けるためだとも言われる。これらも確かにあるだろう。しかし、それだけだろうか? 

ITの基盤となるハードウェアやソフトウェアは、全世界で共通になる。その方が、開発費の負担、量産効果上有利で、また、グローバルな活動をしている企業にも、世界中を旅行している旅行者にも便利だからだ。従って、これらのハードやソフトを開発する人は、初めから全世界の市場の実態と潜在要求をよくつかみ、それにあわせて製品開発、市場開拓を進めなければならない。

それに対し、例えば日本の携帯電話はどうだったろうか? 第2世代では、PDCという日本でしか通用しない方式を採用したため、海外市場への進出が困難だった。また、ITRONの仕様に準拠した各社独自のOSを使ってきた。そのため、全世界で80%のシェアを占め、アプリケーション・ソフトも揃っているシンビアンOSへの切り換えが遅れ、その出荷が始まったのは2004年になってからだ。

他の例をあげれば、商品に付けるICタグでは、EPCglobalの仕様を、米国のウォルマートが採用し、英国のテスコ、ドイツのメトロ、フランスのカルフールなど、世界を代表する小売業がすべてこれを採用する方向で動いている。しかし、日本の政府や一部の大学関係者は日本独自仕様に固執していた。こういうスタンスでは、学者は論文を書けるかも知れないが、全世界の市場は海外の企業にどんどん取られてしまう。そうならないためには、技術開発の初期から、もっと世界に目を見開く必要がある。

このような実態なので、ITの基盤製品の当面の投資対象は、やはり海外のベンチャーにならざるを得ないようだ。

 

1) 例えば、「『ケータイ』日本の世紀」 日経ビジネス、2000429

2) WiMAXの登場でどうなる?」 Tosky’s IT Review, No.503, 2005/04/15

3) 携帯電話と無線LANが結合」 Tosky’s IT Review, No.504, 2005/05/09

4) 非標準無線LANにご注意!?」 Tosky’s IT Review, No.505, 2005/07/18

 


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