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No.504                     酒井ITビジネス研究所  酒井 寿紀                      2005/05/09


携帯電話と無線LANが結合

 

NTTドコモが無線LANでも使える携帯電話を発売

NTTドコモが、20047月に、同社の第3世代の携帯電話であるFOMAの機能と、802.11bの無線LAN経由でIP電話をかける機能を兼ね備えた携帯電話「パッセージ・デュプレ」を発表した。200411月にその販売が始まり、すでにJFEシステムズ、イトーキなどに導入された。こういう、携帯電話回線と無線LANが使えるデュアル・モードの携帯電話は海外にも現れている。そのメリットは何なのだろうか? そしてこれは、今後携帯電話の世界でどういう位置づけになるのだろうか?

デュアル・モードの携帯電話のメリットは?

固定電話の世界では、企業でも家庭でも、IP電話が普及しつつある。それは、IP電話の方が従来の電話より圧倒的に安いからだ。一方、企業や家庭内で、無線LANを介してパソコンをインターネットに接続するのが一般化している。この無線LANを流れているデータはIP (Internet Protocol)なので、これに携帯電話に接続すれば、携帯電話でも安いIP電話が実現できる。これを企業の従業員に持たせれば、デスクの上の固定電話は不要になり、その点でも経費節減が図れる。

そして、デュアル・モードの携帯電話さえ持っていれば、社内にいるときは、ほかの事業所に出張しているときも含めて、IP電話で社内外の人と連絡を取れ、無線LANの電波が届かない社外にいるときは、普通の携帯電話として使える。相手がどこにいても同じ番号で電話をかけられるようにすれば、もはや、相手がどこにいるか調べてから電話をかける必要もない。そして最近、営業部門などでは、個人の専用デスクを持たないオフィスが増えているが、各人が携帯電話を持っていれば、こういうオフィスでも電話の問題はない。

また、各人が携帯電話を持っていれば、会議中でも、接客中でも、移動中でも、いつでも緊急の連絡が取れる。電話に出ることができないときは、携帯電話のメールやボイス・メールを使えばよい。

また、これら以前の問題として、建屋によっては携帯電話の電波が届かないところがあるが、このデュアル・モードの携帯電話を持っていれば、無線LANが使える限りどこでも電話ができる。

ドコモ以外の企業の動きは?

では、NTTドコモ以外の企業の動きはどうだろうか? 20047月に、MotorolaAvayaProximと組んで、GPS/GPRSの携帯電話と802.11aの無線LANで使えるデュアル・モードの携帯電話システムを発表した。このシステムで使われるMotorolaCN620という携帯電話には、Texas Instrumentsの携帯端末用の無線LANLSIが使われている。このシステムは、NTTドコモのものと違って、携帯電話と無線LANの間でのハンド・オーバーをサポートしている。つまり、無線LANで電話をしながら、無線LANが使える建屋を離れれば、自動的に携帯電話回線に切り替って話を続けられる。その逆も同じだ。ただ、このシステムは802.11aというあまり普及してない無線LANを使っている。そのためか、これを扱う通信事業者やこれを導入する企業が現れるのはこれからのようだ。

また、Royal Philips Electronicsは、20053月に携帯電話用の無線LANLSIを発表した。これもハンド・オーバー機能をサポートしている。そして、サムスンが無線LAN用の携帯電話にこのLSIを採用するという。

そして、20048月に、携帯電話に携わる企業グループがGSM/GPRSの携帯電話と802.11の無線LANを併用するUMA (Unlicensed Mobile Access)という仕様を公開し、この仕様を土台にして3GPP (The 3rd Generation Partnership Project:3世代の携帯電話の仕様を制定する組織) で正式な標準仕様を制定しようとしている。このUMAを提唱しているグループには現在、EricssonMotorolaKineto WirelessNokiaSiemensBTCingularなど14社が名前を連ねている。

今後の問題は?

まず、このデュアル・モードの携帯電話で使う無線LANは、Motorolaが使っている802.11aではなく、広く使われている802.11b802.11gにするべきだ。電話だけのために新たに802.11aを導入する必要があるのは、顧客の負担が大きすぎる。

そして、このデュアル・モードで使われる携帯電話やSIP (Session Initiation Protocol)サーバ(電話回線と無線LANを接続する装置)の基本的な仕様は、標準化され、各社の製品が使えるようにする必要がある。上記のUMAは、GSM/GPRSについてのその試みの一つだ。今後、ドコモなどのUMTS系、KDDIなどのCDMA2000系についても同様の規格の制定が望まれる。

また、現在のドコモのデュアル・モードはハンド・オーバーをサポートしてないが、将来は、ユーザーがまったく意識することなく、シームレスに携帯電話と無線LANを使えるようにするべきだろう。

そして、携帯電話の事業者は、デュアル・モードをサポートすれば、かなりの通話・通信がIP電話に流れ、収入が減少することを恐れている。しかし、自社がサポートしなければ、これをサポートする他社にユーザーを取られ、収入がもっと減る。ユーザーの利便性を上げることによって、収入減を極力抑えるのが今後取るべき道だ。

まだこれらの問題はあるが、上述のようにメリットが大きいため、今後このデュアル・モードの携帯電話は急速に普及するだろう。


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