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title.gif (1997 バイト)

No.216                            酒 井 寿 紀                      2002/08/17


半導体ビジネスはどうなる?

 

本誌No.106「何故ITか?(半導体の進歩から)」に、ITビジネスの進歩の最大の源は半導体の進歩だと書いた。1) そこに示したように、1970年代から90年代にかけて、半導体メモリは1.5年でほぼ2倍になる進歩を続けてきた。これは10年で100倍の進歩に当る。

半導体のエクスポネンシャルな進歩を始めて予言したのはGordon Mooreで、彼は1965年に書いた論文で、少なくとも10年後の1975年までは、1年で2倍、つまり10年で約1,000倍の進歩が続くだろうと言っている。2) 長期的にはさすがにこのペースは続かなかったが、予言した時期の早さには驚かされる。1965年といえば2ゲート程度のICが出始めた頃で、IBMはまだモノリシックICを使っていなかった。

プロセッサの世界では、この進歩のペースは若干遅く、ほぼ2年で2倍、つまり10年で約30倍のペースである。現在はこれをMooreの法則と言っているようだ。3)

では、今後の見通しはどうだろうか? 

Intelは、200012月のInternational Electron Devices Meeting (IEDM)で、ゲート長30ナノメートルのCMOSを発表し、2005年に実用化の見通しだと言った。そして、昨年11月にはゲート長15ナノメートルのCMOS2009年に使えるようになる予定だと発表した。

AMDも昨年12月のIEDMでゲート長15ナノメートルのCMOSを発表した。

Mooreの法則はまだ当分続きそうである。

では、今後の半導体技術の進歩は半導体ビジネスにどう影響するだろうか?

以前はプロセッサといえば大きな箱に入った装置だったが、現在は、ビデオゲームや携帯電話のプロセッサはいわゆるプロセッサ・コアとして提供され、もはやLSIの一部を占めるに過ぎない。多くの携帯電話に使われているARMや、ソニーのPlayStation 2に使われているMIPS Technologiesのプロセッサ・コアがこれに当る。いわゆるIntellectual Property (IP)ビジネスと呼ばれるものである。

さらにLSIの集積度が上がれば、もっと大きいプロセッサもIPとして提供されるようになるだろう。そして、プロセッサだけでなく、グラフィックスやネットワークの回路もIPとして販売されるようになる。例えばグラフィックス処理では、任天堂のGameCubeLSIにはATI Technologiesの技術が組み込まれ、MicrosoftXboxLSIにはNVIDIAの技術が使われている。

こうして従来プロセッサやグラフィックスのLSIを販売していたメーカーは、ハードウェアである部品の販売をやめ、LSIの中で使われるIPのベンダーに変わってきた。今後LSIの集積度が増せば、この傾向はさらに強まるだろう。

そして、セットメーカーが製品に必要なIPを買い集めてシステムLSIにまとめる時代になると、IPのベンダーは当然複数にまたがるので、IPの提供とLSIの製造は別の企業になるのが一般的になる。例えば、前掲のARMMIPS TechnologiesNVIDIA等はどこも半導体の製造設備を持っていない。いわゆる「fabless」である。そして、PlayStation 2CPULSIは東芝とソニー・コンピュータエンタテインメントの合弁会社が製造し、GameCubeのグラフィックスのLSINECが製造し、XboxのものはTSMC(台湾)が製造している。

また、システムLSIの時代になると、LSIの外部仕様はセットメーカーが決めるようになり、各社は携帯電話やビデオゲーム等の製品に自社の特徴を持たせるよう工夫する。

こうして、従来の半導体メーカーの仕事は、3種類の企業が分担するようになる。つまり、LSIの仕様はセットメーカー、その中で使われるIPの供給はIPベンダー、そしてLSIの製造は半導体の製造業者(ファウンドリ)がそれぞれ引き受けるようになる。

こういう時代になると、ファウンドリの仕事は、プロセス技術の開発と、セットメーカーに対する「入れ物」の提供と、製造の受託になる。そこで問われるのは「入れ物」の良否であって、中身ではなくなる。中に入れる「品物」はIPベンダーが提供し、セットメーカーが何を入れるかを選択するようになる。

こうして半導体ビジネスは、「入れ物」のハードウェア事業と、「品物」のソフトウェア事業と、これらを製品にまとめるセットメーカーのシステム事業に大きく分かれて行きつつある。

このように3業種による分業が成立するようになると、セットメーカーは必ずしも半導体の生産設備を持つ必要がなくなる。Microsoftや任天堂が半導体の生産設備を持っていないからといって、そのために著しく不利になることはない。全世界のファウンドリから最適なところを選択すればいいため、むしろビジネスの自由度が増すというメリットが生じる。

半導体の生産設備を持つなら、それには、品質やコストの面で、全世界のファウンドリと戦えるだけの競争力が要求される。また、最先端のプロセス技術を必要とする製品を作ろうとするのなら、毎年国際学会で発表できるくらいの技術開発力を持ち続けなければならない。

3業種による市場の水平分割化、オープン化が進むので、IPとファウンドリの両部門を持つ大企業では、自社のIPは他社でも製造でき、自社のファウンドリは他社のIPにも対応できるようにしなければならない。そして、中途半端な競争力しかないIP部門やファウンドリ部 門はむしろない方がいい。ITビジネスについて前に書いたように、ここでも「持たざる者の強み」、「持てる者の弱み」が成り立つ。4)

 

1)  http://www.toskyworld.com/money/2001/money106.htm

2)  http://www.intel.com/research/silicon/moorespaper.pdf 

3)  http://www.intel.com/research/silicon/mooreslaw.htm

4)  http://www.toskyworld.com/money/2002/money209.htm


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