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No.209 酒 井 寿 紀 2002/06/27
SIビジネスと製品ビジネスに2極分化
前号に、ITビジネスの市場はメーカーごとの垂直分割から製品ごとの水平分割に変わってきたと書いた。1) この水平に分割された市場のひとつに、製品の市場とは別に、システム・インテグレーション(SI)の市場がある。これは、ユーザーの要求に応じて、サーバー、パソコン、ネットワーク製品、各種ソフトウェア等を組み合わせてシステムを構築したり、こうして構築したシステムを使ってユーザーにサービスを提供したりするビジネスである。
このSIは、ITビジネスのひとつとは言っても、製品ビジネスとは性格が大きく違う。
製品ビジネスではマーケットシェアがトップグループの企業しか生き残れない。現在のようにインターフェイスの仕様が共通化された市場では、どのメーカーの製品でも代替がきき、また、開発費や半導体の設備投資等、固定費の比率が高いため、シェアが高い企業が圧倒的に有利だからである。現にパソコン、サーバー、ネットワーク製品、主要なソフトウェアの市場は少数のメーカーによって占有され、新規に参入するのは極めて難しい。パソコンのメーカーは数が多いと言っても、基幹になる技術を供給しているのはIntelとMicrosoftだけである。
一方、SIはユーザーの数だけビジネスが存在し、とても全世界を1社や2社でカバーできるものではない。従って、SIについては地域や業種ごとに特徴を持った企業が多数存在することができ、規模が小さくてもそれなりにビジネスが成立する。
最近ITビジネスをハードとソフト・サービスに分けた記事をよく見かけるが、ソフトウェアはあくまで製品であり、SIはサービスの中核になるものである。従って、ビジネスの性格上はこの分けかたはあまり適切でなく、ハード、ソフトを含めた製品ビジネスとサービス事業に分ける方がいい。
昔は各コンピュータ・メーカーが、メーカーごとに垂直に分割された市場の中で、SIの仕事をやっていた。これらの企業の中には、現在でもSIビジネスと製品ビジネスを兼業しているところと、SI専業になってしまったところがある。
ハード、ソフトの各製品のインターフェイスの仕様が共通化され、各製品についてそれぞれ水平な市場が出現すると、SIもひとつの独立した市場になり、他業種からの新規参入者が相次いだ。例えば、アメリカのEDS、日本のNTTデータ等のSI専業の企業である。
製品メーカーを兼業しているインテグレータ(SI業者)と、SI専門のインテグレータでは、いずれが有利なのだろうか? そしてSIビジネスと製品ビジネスの関係は今後どうなっていくのだろうか? 先ず、ユーザーの立場から見てみよう。
製品を製造しているインテグレータの方が、各製品について高度な技術力を持っているため、問題が起きた時に迅速かつ適切に対処してくれるというメリットはある。しかし、あるユーザーにとって、インテグレータとは別の企業の製品のほうが適している場合でも、インテグレータがその製品を自社で製造していると、どうしてもそれを押し付けられがちである。ユーザーから見れば、インテグレータは、製品の選択については、無色透明でフリーハンドな方がいい。
ではメーカーにとってはどうだろうか?
製品ビジネスとSIビジネスを兼業していると、SI部門は、本当は他社の製品を使いたくても、会社の経営上しぶしぶ自社製品を使わざるを得ないことが多い。自社製品が超一流ならいいが、コストや品質に問題があるときは、これはSIビジネスの足を引っ張ってしまう。そしてSIビジネスがうまくいかないのを製品のせいにしてしまう。
一方、製品を担当している部署は、製品専業ならもっと全世界のインテグレータに売り込めるのに、SIと兼業しているため他のインテグレータへの売り込みが難しいという不満を抱く。大きいインテグレータの場合は自社のSIの需要だけでも何とかビジネスが成り立つが、小さいインテグレータだと自社の需要が少ないため、問題はより深刻である。また、自社のSI部門への供給で満足し、他のインテグレータへの販売の努力を怠り、販売量が伸びないのを自社のSI部門のせいにしがちである。
そして製品担当者の中には、製品自身の競争力が低く、会社の収益に直接は貢献してないが、SI部門の売上げ、付加価値の確保にはそれなりに貢献しているからいいのだと考える人もいるかも知れない。
確かに、proprietaryな製品で構成されていた、垂直に分割された市場では、たとえ製品自身に充分な競争力 がなくても、製品がまったくないよりはあった方がよかった。他社から買ってくることができず、何もなければシステムが構築できなかったからである。しかし今や製品のインターフェイスの仕様が共通になり、いわゆるオープンな世界になったので、自社になければ他社から買ってくればいいのだ。中途半端な製品を持っていることは、インテグレータにとって「百害あって一利なし」になったのである。
このようにSIビジネスと製品ビジネスは、お互いに相手を「持たざる者の強み」と「持てる者の弱み」が大きい。
従って、今後ますます、SIビジネスと製品ビジネスの2極分化、独立化が進むだろう。理屈通りにいかないのが現実のビジネスの世界だが、この方向への圧力は働き続けるだろう。企業を分割するところもあるだろうし、一企業内で経営責任を明確に分けるところもあるだろう。
そうすることがお互いの不満ともたれあいと甘えを排除することになるからだ。そしてそれは何よりもユーザーのためになるからである。
1) 「垂直分割から水平分割へ」 http://www.toskyworld.com/money/2002/money208.htm