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(株)オーム社 技術総合誌「OHM 2010年7月号 掲載        PDFファイル

 

 

KDDIJ:COMに資本参加したわけは?

 

酒井 寿紀Sakai Toshinori) 酒井ITビジネス研究所

 

KDDIの最近の動きは?

KDDIが日本最大のケーブルテレビ会社であるジュピターテレコム(J:COM)に資本参加することになった。今年125日にKDDIがその計画を発表したときは筆頭株主になる予定だったが、法的な問題もあって、最終的に議決権ベースでの持分は31.1%に抑えられた(a),(b)。一方、従来J:COMの筆頭株主だった住友商事は、株式公開買付けで持ち株比率を40.1%に引き上げ、筆頭株主の地位を維持した(c)

こうして当初の計画は多少修正されたが、J:COMKDDIの関連会社になったことに変わりはない。なぜKDDIはケーブルテレビ事業に手を広げる必要があるのだろうか? 同社の最近の動きを振り返ってみよう。

同社は東京電力系のFTTH (Fiber-to-the-Home:光アクセス網)を取得するとともに、2008年には中部電力系のFTTH網を所有する中部テレコミュニケーションを子会社化した。MM総研の統計によると、20089月から1年間の全国のFTTHの契約数の伸び率は20.4%だが、同社の伸び率は36.4%である。同社のシェアはまだ8%だが、このように同社は近年FTTH網の拡充に力を入れている(d)

また同社は、2006年に国内第2位のケーブルテレビ会社であるジャパンケーブルネット(JCN)を子会社化し、今回、同業界トップのJ:COMに資本参加する。このように、同社はケーブルテレビ業界との連携を図っている。

通信事業者とケーブルテレビ会社の協業には、ケーブルテレビ会社の放送サービスと通信事業者の電話サービスをセットで販売することや、ケーブルテレビ会社が保有するテレビ番組を通信事業者の光通信サービスで配信することがある。しかし、これは現在でも行われているので、これだけなら何も資本参加までする必要はなさそうだ。

では、KDDIは何を狙っているのだろうか?

 

通信事業者とケーブルテレビ会社が統合?

昨年10月号の本コラム「通信事業者 vs. ケーブルテレビ会社・・・トリプルプレイの勝者は?」(1) に記したように、今後の通信事業の中心は、光アクセス網を介して、インターネット接続、テレビ映像の配信、電話の3サービスをまとめて提供するトリプルプレイになる。そしてこの市場では、通信事業者とケーブルテレビ会社がもろに競合することになる。

この市場での地歩を確保するために、KDDIFTTH網の拡充に力を入れているのだと思われる。しかし、すでに日本では90%の世帯でFTTHが利用可能な状態になっているので、今後は、現在30%に過ぎないFTTHの世帯利用率を向上させることが課題だ。

敷設済みのFTTHの利用率を高めるには光の特長を生かした魅力あるサービスの提供が必須だ。それには光の高速性を生かしたテレビ映像の配信がもっとも適している。そしてこれを短期間に実現するには、現在のケーブルテレビのユーザーをFTTHで取り込むのが一番手っ取り早い。

これは、ケーブルテレビ会社にとっては、顧客を奪われるという面もあるが、アクセス回線の光ファイバ化が実現でき、それを使ってテレビ映像の配信事業を継続できるという見方もできる。ケーブルテレビ会社は、コンテンツの調達や番組の提供については通信事業者より蓄積があるので、決してケーブルテレビ会社が一方的に弱い立場に立たされるわけではない。

端的に言えば、トリプルプレイの時代には、通信事業者にとっても、ケーブルテレビ会社にとっても、どちらが主体になるかは別にして、お互いの事業を統合するほかに生き残る道はないのではないだろうか?

KDDIがケーブルテレビ会社と手を組むのは、こういう時代の到来に備えようとしているのではなかろうか?

 

光アクセス網の市場での健全な競争を期待

今年の4月号の本コラム「NTTは光アクセス網を開放すべき!」(2) に記したように、NTTグループが日本の光アクセス網の70%以上を占めているため、総務省はこれをNTT本体から分離して通信市場の活性化を図ろうとしている。ソフトバンクなどはこの分離を強く要求しているが、NTTは猛反対していて、518日の総務省のタスクフォースの会合では結論を1年先延ばしする話になったという。原口総務相はその後「1年先送りしている余裕はない」と、年内に一定の結論を得る考えを示したというが、半年も1年も先送りすれば、政治環境の変化も考えられるので、どういう方向に進むことになるかは不透明だ。

そのためKDDIは、政府を当てにせず、自力でNTTに対抗できるようになりたいと考えているのだと思われる。

たとえNTTの光アクセス網の分離が実現しても、それと競合する別のアクセス網が存在することは大変結構なことだ。なぜなら、1社による独占では、価格の妥当性の検証が困難で、価格低減・サービス向上に対する力が働かず、また、政府の支援によって無理な低価格を実現すれば、結局国民に税負担を強いることになるからだ。

過疎地や僻地での光アクセス網の整備には政府の支援が必要かもしれないが、少なくとも大都市圏では、KDDIなどが参画した健全な競争が存在する市場が出現することを期待したい。

 

(1)  http://www.toskyworld.com/archive/2009/ar0910ohm.htm

(2)  http://www.toskyworld.com/archive/2010/ar1004ohm.htm

   

[関連記事]

(a) 「株式会社ジュピターテレコムへの資本参加について」、2010年1月25日、KDDI株式会社

        (http://www.kddi.com/corporate/news_release/2010/0125/)

(b) 「KDDI、J:COM出資比率を3分の1未満に引き下げ 金融庁の指摘受け」、2010年02月15日、ITmedia

        (http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1002/15/news016.html

(c) 「KDDIと住友商事、J:COMとJCNの事業統合報道を否定」、2010/4/26、Internet Watch

        (http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20100426_364032.html)

(d) 「FTTH契約数1,655万件、KDDIが純増シェアを大きく伸ばす 〜 MM総研調べ」、2009.11.19、RBB TODAY

        (http://s.rbbtoday.com/article/img/2009/11/19/63863/88833.html

 


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