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(株)オーム社 技術総合誌「OHM 2009年10月号 掲載        PDFファイル

 

 

通信事業者 vs. ケーブルテレビ会社

                ・・・トリプルプレイの勝者は?

 

酒井 寿紀Sakai Toshinori) 酒井ITビジネス研究所

 

トリプルプレイ時代の到来

昔は家々に電話線が引き込まれて電話機に接続されていた。やがてその電話線はパソコンにも接続されるようになり、最近はテレビ映像の配信にも使われるようになった。トリプルプレイ時代の到来である。そして、従来の電話線が光ファイバに変わりつつあり、そこを流れる情報もインターネットで使われるIP (Internet Protocol)という規格で統一されつつある。

ところがこのトリプルプレイの提供者に、ケーブルテレビという、まったく生まれ育ちが違うものがもう一つある。ケーブルテレビはもともとテレビ映像を配信するものだった。その後、その配信網をインターネットの接続に利用するようになり、そしてIP電話にも乗り出している。こうして、結果的には通信事業者のトリプルプレイと同様なサービスを提供するようになった。

ケーブルテレビの回線は従来基幹網だけが光ファイバで、加入者線は同軸ケーブルだった。しかし、最近は加入者線の光ファイバ化を進めている。そのため回線網としても通信事業者との差がなくなりつつある。

現在、トリプルプレイでのテレビ映像の配信には二つの方式が使われている。一つはIPを使うIPTVで、NTT東日本の「ひかりTV」などだ。もう一つはテレビの映像信号をそのまま配信するRF (Radio Frequency)方式で、ケーブルテレビなどで使われている。

将来IPTVが主流になれば、通信網の仕事はIPという標準のコンテナを輸送するだけになる。インターネットのデータも、テレビ映像も電話も、そのコンテナの中の荷物に過ぎなくなる。輸送業者にとっての問題はコンテナの数と輸送する距離だけで、荷物の種類はあまり関係ない。

 

通信事業者 vs. ケーブルテレビ会社

トリプルプレイの市場では、通信事業者とケーブルテレビ会社がもろに競合することになる。ユーザーにとっては、よりよいサービスをより安く提供してくれればどちらでもよい。

より安く提供するためには、全国規模で事業を展開している通信事業者の方が有利だ。NTT20093月末までに1,113万件の光ファイバの契約を獲得した(a)。日本最大のケーブルテレビ会社の契約数の3倍以上だ。2009年度にはNTT東日本のほぼ全域に光ファイバを敷設する計画だという。

一方、日本のケーブルテレビは、もともと共同住宅や難視聴地域向けに始まったため、規模が小さいものが多い。近年、合併や系列化を進めているが、通信事業者に比べればまだまだ規模が小さい。

通信事業者だけでは光ファイバの普及速度に限界があり、ケーブルテレビ会社だけではトリプルプレイに参入する体力に問題があるため、両者による協業も始まっている。今年は山形テレビとNTT東日本が山形市の周辺で協業を始めた。NTT東日本が光ファイバ網、インターネットと電話のサービスを提供し、山形テレビがテレビ映像を配信する(b)。しかし、ユーザーから見れば、トリプルプレイが通信事業者やケーブルテレビ会社単独で提供されるときより安くなるのでなければ協業の意味がない。その点、山形の事例には問題がある。

現在日本では、通信事業者が直接放送事業に参入することを禁止している。そのため、NTTは直接テレビ映像の配信ができず、別会社が配信している。しかし、この配信事業は実質上NTTの支配下にあるので、形式的に別会社になっていることは通信事業者による独占の抑止にはあまり役立っていない。では、日本全体としてトリプルプレイの市場を活性化するにはどうしたらいいのだろうか?

 

フランスの事例も参考に

フランスの規制当局は2000年、フランス・テレコムに回線を貸し出すことを義務付け、料金やサービス内容についても細かく要請した。その結果、イリアッドという新興企業が2002年にフランス・テレコムから回線を借りて29.9ユーロ(4,000)/月でADSLの事業を始めた。その後同社は回線を高速化し、トリプルプレイ・サービスの提供を始めたが料金は据え置いた(c)。同社は企業買収や設備投資で自前の回線も持つようになり、現在は回線の光ファイバ化を進めている。光ファイバになれば、下り100Mbps・上り50Mbpsの通信、100チャネル以上のテレビの視聴、フランス国内での無制限の通話が利用できるが、料金は従来のままだという。1万円/月前後する日本のトリプルプレイに比べれば半分以下だが、それでも昨年は、新規買収部門を別にして約15%の純利益をあげているから立派だ(d)

日本の通信事業者は、とかく何でもかんでも自社で抱え込んだ垂直統合型のビジネスに突き進もうとする。トリプルプレイの市場でも、電話も、インターネットも、テレビも取り込もうとしている。しかし、これでは競争がなくなり市場の発展が期待できない。フランスの例のように、大通信事業者には回線の開放を義務付けて、それを利用してサービスを提供する企業の育成を図るべきではなかろうか? トリプルプレイ時代には光ファイバのIP網を開放することになる。

トリプルプレイは、携帯電話も取り込んでクウォードルプルプレイになりつつある。これが無競争の独占になったら通信市場全体の発展が阻害される。プレイヤーの数が増えるような施策が望まれる。

 

[関連記事]

(a) 「NTT社長会見「2010年度末で光契約2000万達成は困難」」、2009/05/15、Internet Watch

         (http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2009/05/15/23454.html)

(b) 「ケーブルテレビ山形とNTT東日本との協業について」、2009年2月27日、ケーブルテレビ山形、東日本電信電話

        (http://www.ntt-east.co.jp/release/0902/090227b.html)

(c)  "How France Became A Leader in Offering Faster Broadband", March 28, 2006, The Wall Street Journal

        (http://online.wsj.com/news/articles/SB114351413029509718)

(d)  "2008: A Record-Breaking Year", Press Release, 19 March 2009, Iliad

         (www.iliad.fr/en/finances/2009/CP_120209_Eng.pdf)

(e) 酒井 寿紀、「NTTは光アクセス網を開放すべき!」、OHM、2010年4月号、オーム社

        (http://www.toskyworld.com/archive/2010/ar1004ohm.htm)

(f) 酒井 寿紀、「KDDIJ:COMに資本参加したわけは?」、OHM、2010年7月号、オーム社

        (http://www.toskyworld.com/archive/2010/ar1007ohm.htm)

 


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