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No.10                             酒 井 寿 紀                      2000/4/12


日本の景気回復は本物か?

 

昨年1年間に、日経平均株価は約1.4倍になり、TOPIXは約1.6倍になった。

日銀の業況判断指数は昨年の始め以来改善を続けている。

政府は毎月の「月例経済報告」で、昨年の7月以来、景気は「やや改善している」とか「緩やかな改善が続いている」と言い続けている。

証券関係者は、現在2万円前後の日経平均株価が、今年の半ばには22,000円程度になるだろうと新聞等で言っている。

これらの数字や世の中のムードを見る限り、日本の長く続いた不況も終わりつつあり、本格的な景気の回復を迎えつつあるように見える。

しかし、本当にそう思っていいのだろうか?

小渕政権は、財政再建を犠牲にして景気対策を優先した為、国と地方を合わせた長期債務が600兆円を超えてしまった。

日銀は、利子生活者の暮らしを犠牲にして、95年9月から公定歩合を0.5%という最低レベルに据え置き、また昨年2月からいわゆる「ゼロ金利政策」という異常な政策を取り続けている。

この2月の完全失業率は4.9%と過去最悪の水準だった。そして、製造業でも金融業でも、リストラの為今後数年間に数千人の規模の人員削減を計画している企業が多い。

昨年来銀行や保険会社の合併が立て続けに発表されたが、合併の効果が現れるのは相当先になるだろう。そして、中小の金融機関の整理・統合はこれからである。

これらの点から総合的に見て、われわれは現在どういう状況に置かれているのだろうか?

小渕政権の景気対策は、病気の原因を取り除く「原因療法」は後回しにして、取りあえず死にかけた病人を延命させる為の「対症療法」だったのだ。病人が死んでしまったら、「原因療法」も意味がなくなるから、先ずはカンフル注射で元気をつけさせたのだ。そのために少し元気を回復したように見えるのが現状だ。

しかし、ガン細胞も病原菌もまだ身体のなかに残ったままなのだ。外科手術や抗生物質による治療でこれらの原因を取り除く「原因療法」はこれからなのだ。今迄の「対症療法」は、これからの「原因療法」を可能にする為の体力を回復させるための手段だったのであり、この「対症療法」だけで治療が終わると思ったら大きな間違いだ。

現在実施中の「対症療法」はカンフル注射等という生易しいものではないかも知れない。

超低金利政策は、いわば、詰まって役に立たなくなった大動脈の代わりに、太い人工の大動脈を取り付けたようなものだ。

それだけではまだ足りずに、景気対策に国債を湯水のように使っているが、これは、血液が溜まって流れ出ない臓器からポンプで強引に血液を汲み出して、血液が流れて行かない臓器に無理矢理送り込むようなものだ。

こういう荒療治で、やっと少し血液が流れ出したのが現在の姿だ。

しかし、この人工の大動脈やポンプは永久に使えるわけではない。それどころか、もうすぐ寿命が尽きるのだ。寿命が尽きる前に、自力で正常な血液の循環が始まってくれないといけない。しかし現在は、どっちが早いかぎりぎりのところまで来ているのだ。

従って、幸いにしてこの「対症療法」が功を奏し、一命を取り留める目処がついたら、すぐにでも、「原因療法」に取り掛からなければならない。政府は、行政改革と税制改革で財政を立て直し、法律・税制の改正、規制緩和、通信インフラの整備等で民間企業の構造改革を促進しなければならない。それを踏まえて民間企業は、製造業も金融業も流通業も、インターネット等の新技術を活用して、抜本的に構造改革する必要がある。

景気が回復したとか、まだ回復したとは言えないとか議論されている。しかし、「回復する」ということが「元へ戻る」ことだとすると、回復等されたら困るのだ。回復していいのは株価であって、その株価を支える経済活動は、元とはまったく別のものになってくれなければならないのだ。

本当に健康な身体になるには、うまく行っても、今後5〜10年かかるだろう。健康な身体といっても、昔の高度成長、低失業率に戻ることはあり得ない。実質成長率2%前後で、5%前後の失業者を抱えながらの安定成長が目標だろう。欧米の先進国もそうなると思われるからである。

現在の日本の経済はこういう状況なのだと思う。少し手足が動くようになったからと言って、基礎体力が戻ったと誤解すると、とんでもないことになる。日本株への投資の際はこの点によく気をつける必要がある。 


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