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No.8                             酒 井 寿 紀                      2000/4/1


政府関係者の発言にご注意!

 

ここで政府関係者とは、総理大臣を含む閣僚、与党の代議士、そしてこの人達の意向を無視できない官僚のことである。

政府は「月例経済報告」で、昨年7月以来毎月「景気はやや改善している」、「緩やかな改善が続いている」と言い続けている。9ヶ月も「改善」が連続すれば失業率等もう少しよくなってもいいはずだ。

また3月13日の、昨年10〜12月のGDPの速報発表の時、前四半期に引き続いてマイナス成長だったにもかかわらず、堺屋太一経済企画庁長官は記者会見で「本年度のGDPの実質0.6%成長は達成可能だと思っております」と言った。しかし海外では、2四半期マイナス成長が続いたために日本は再び「recession」に入ったと報道された。その後、3月17日の「月例経済報告」発表時の記者会見では、「日本の景気もようやく明るさが満ちてきたのかなというような感じを持っております」と言っている。一体どっちが本当なのだろうか?

また、毎年1月に発表される次年度のGDPの実質成長率見通しを実績と比べると、97年度は見通し1.9%に対し実績は−0.9%、98年度は見通し2.4%に対し実績は−1.9%とまったく当たっていない。

政府の発表や政府関係者の言うことはどこまで信用していいのだろうか?

政府関係者の立場で考えてみよう。

総理大臣を含む閣僚の当面の最重要課題は現政権の維持継続だ。そして与党代議士にとっては次の総選挙で再選されることが何がなんでも必要だ。国民の生活の向上とか、100年後の日本のためとかいくら言ったって、この目先の最重要課題を解決した上での話だ。

その為には、景気はいいんだと国民に思ってもらわなければならない。現在の景気も重要だが、将来はさらによくなると思わせなければならない。その為、政府の発表や政府関係者の発言が実態よりよくなるのはやむを得ないことなのだ。少なくとも、いい面を強調し、悪い面にはできるだけ触れないようにする。セールスマンが自社製品のいいところを自慢し、悪いところは知っていても言わないのと同じだ。有能な政治家やセールスマンほどその傾向が強い。

嘘にならないぎりぎりのところを狙うため、微妙な表現が多い。「月例経済報告」でも、「一層の悪化を示す動きと幾分かの改善を示す動きが入り混じり、変化の胎動も感じられる」(98年12月)、「依然として厳しい状況にあるが、各種の政策効果に下支えされて、このところ下げ止まりつつある」(99年3月)等、官僚は文学的才能がないと務まらないようだ。

いずれにしても、政府関係者の発言はいつも「下駄」を履いていることを認識しておく必要がある。彼らの話を聞く時は下駄をぬがせて聞かなければならない。

また、彼らの仕事は、景気見通し等を精度よく当てれば済むものではない。景気が悪くなる見通しをいくら精度よく当ててくれてもちっとも有り難くない。政治を運営する当事者である以上、少しでも景気をよくし、健全な経済成長を実現するのが予測精度の向上よりはるかに重要だ。その為、ある程度はずれるのを承知の上で、バラ色の明るい見通しを示し、消費者に財布の紐をゆるめさせ、経営者の設備投資の意欲をかきたてようとする。

われわれは、こういう見通しに対しては、承知の上でだまされてあげた方がいいのだ。

政府はここ1年近く、景気は改善しつつあり、明るさが見えてきたと言い続けている。われわれはそれにだまされて、どんどん商品も株も買った方がいいのだ。そうしないと景気はよくならない。しかし一方で、経済の本当の実態はどうなのかを覚めた目でよく見極める必要がある。

意図的に景気のいい話をするのは結構だ。しかしこれも度が過ぎると困る。堺屋長官の「99年度の成長率見通し0.6%は達成可能だ」との発言はどうだろうか? 6月になって化けの皮がはがれ、大幅に未達となった時の株価の暴落が心配だ。これが6月前の解散・総選挙を想定した裏付けのない政治的発言だとすると問題である。解散・総選挙が6月の実態判明後になれは、この発言は逆効果になる可能性もあると思う。

しかしこうして、嘘でもいいから何か言ってくれれば、こっちも下駄をぬがせたり、わざとだまされてあげたり、やりようがある。しかし、政府の関係者は知っていても言わないことがしょっちゅうあるので要注意だ。

例えば、1995年に大和銀行のニューヨーク支店で発覚した、行員が11年間に渡り11億ドルの損失を会社に与えていたという事件について、大蔵省は大和銀行から報告を受けていたにもかかわらず、アメリカで大問題になるまでは公表もアメリカ政府への通報もしなかった。大和銀行はアメリカ政府に厳罰に処せられたが、アメリカ政府が本当に厳罰を科したかったのは日本の大蔵省だったのではなかろうか。

大蔵省に限らず、日本の役所と民間企業は非常に仲良くうまくやってきたので、その「官民ぐるみの身内」から外に出てこない情報は山のようにあることを承知しておかなければならない。

なお、本号で引用した、「月例経済報告」、GDPの数値、堺屋長官の記者会見の内容はすべて経済企画庁のウェブサイトに掲載されている。何年も前の報告書や記者会見での細かいやりとりが、いつでも誰でも読めるということは、政府関係者にとっては厳しい世の中になったものだ。


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