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No.601                     酒井ITビジネス研究所  酒井 寿紀                      2006/02/10


東証に望む

 

Simple is the Best

今年14日、日興シティグループ証券の従業員が個人の資産運用で日本製紙株を2株買おうとして、誤って2,000株の買い注文を出した。当日株価は50万円程度で、2株で100万円程度だったが、当人は1取引単位が1,000株で50万円程度と錯覚したという。そのため約10億円の注文になってしまった。

また今年113日には大和証券SMBCが顧客から三井住友海上火災保険の25000株の売り注文を受け、誤って市場に三井住友フィナンシャルグループの売り注文を出してしまった。これは単純な銘柄の取り違いだが、三井住友海上火災保険は売買単位が1,000株で株価が1,300円台だったのに対し、三井住友フィナンシャルグループは売買単位が1株で株価が100万円以上したことが影響を大きくした。3,000万円程度の売り注文のはずが、もし全部売却されていたら300億円近くになった。

両者とも人間の単純なミスだ。しかし、東証の売買単位が1株から3,000株まで7種類もあることがこういう問題を誘発し、被害を拡大する原因になっている。企業によって売買単位に3桁も開きがあるため、必然的に株価の開きも大きくなり、100円以下のものから100万円以上のものまで4桁以上の開きがある。銘柄ごとの売買単位はとても覚えきれず、また株価の桁が多すぎて間違いの元になっている。

その上、売買単位が同じ1株でも、株価がライブドアのように100円程度のものから銀行のように100万円以上するものまである。これは一見、企業にとって資本戦略上の自由度が高く、また一般大衆から広く資金を集めるのに有効で、いい制度のように思えるが、その反面不合理な点もある。1取引にかかるシステムのコストは100円の売買でも100万円の売買でも同じなので、100円単位の投資家のために要する膨大な設備の費用を100万円単位の投資家が過大に負担させられることになり、市場全体として非常に高コストで非能率になっている。

これが米国のように、売買単位は原則として100株で、株価は普通数ドルから数10ドルの範囲におさまっていれば、はるかに便利で誤りも減る。株の取引は戦場での一瞬の判断と同じである。複雑な制度は極力避けるべきだ。“Simple is the best.”である。

確かに、売買単位をこのように増やしてしまった後、また統一するのは容易ではなかろう。しかし、株式分割と株式併合、株式のくくり直しをうまく使えば、例えば、売買単位を100株に統一して、売買単位あたりの金額をおおむね数万円から数10万円の範囲に納まるようにすることができないことはないはずだ。

人間はミスを犯すもの!

昨年128日、みずほ証券がジェイコム株の「指値61万円で1株売り」を「指値1万円で61万株売り」と間違えて発注した。その日はジェイコムの新規上場の初日で、初値は公募価格61万円に対し672000円だった。そして、この誤発注はストップ安の572000円で一部の売買が成立してしまった。ジェイコムの発行済株式は14500株のため、大量に空売りされた株は買い戻すこともできず、株を買った人には株でなく現金で決済するという異例の処置が採られた。

本件の直接の責任はもちろん誤発注した証券会社にある。しかし、人間のやることにミスはつきものだ。公募価格の60分の1以下という通常考えられない売り指値や、発行済株数の40倍を超える株の空売りなど、人間が注文を受ければ誰でもすぐ間違いだと気付いただろう。特に発行済株数の何十倍もの空売りを執行すれば、その後市場が混乱するのは目に見えている。しかし機械は注文通りに売買してしまった。

取引所のシステムには、明らかに異常な注文を排除して、人間のミスによる市場の混乱を最小限に抑える配慮が要求される。

取引所までパニックになったら終わり!

116日のライブドアの強制捜査で、17日、18日と株のろうばい売りが続き、2日間で日経平均が一時1,200円下がった。東証の清算システムの処理能力は1日の約定件数が450万件までだったが、18日の午後2時過ぎに当日の約定件数が400万件を超えたため、東証は午後240分に全銘柄の取引を強制的に停止した。そして19日以降、午後の取引開始を1230分から1時に30分繰り下げ、その日の約定件数が400万件を超えたら全銘柄の売買を停止すると発表した。

大事件が起きれば投資家がパニックに陥ってろうばい売りが殺到するのは株式市場の常だ。その時、取引所までパニックに陥って注文に対応できなくなったり、いつ売買を中止することになるか分からないと言ったりすれば、投資家はますますろうばいする。投資家がパニックに陥っても、少なくとも取引所は正常に機能し続けることが望まれる。

東証の平均約定件数は昨年1年間に、1150万件程度から300万件程度に増加した。どの程度の処理能力を準備するかは、システムがパンクするリスクと設備投資に要する費用を天秤にかけて決めることになる。しかし、処理能力が平均約定件数の2倍以下ではどう考えてもリスクが高すぎ、常識的には少なくとも4倍程度は必要と思われる。今回問題になったのはどちらかと言うと裏方の清算システムだが、この問題は売買システムについても同じである。東証は、昨年後半の取引の急増を読み誤り、設備増強の手を打つのが遅れて全世界で信用を失墜した。

東証が、昨年111日の長時間ダウンなどの再発防止を図るのはもちろん、上記のような問題を解決し、一日も早く安心できる取引所になってくれることを望む。


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