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No.503                     酒井ITビジネス研究所  酒井 寿紀                      2005/04/22


放送とインターネットは融合するか?

 

418日のホリエモンとフジテレビ側との和解で、ホリエモン騒ぎもようやく一段落したようだ。このホリエモン騒ぎが提起した問題はいろいろあるが、その一つに、ホリエモンが唱える「既存メディアとインターネットの融合」という問題がある。ここでは、この問題を取り上げてみよう。

メディアって何だ?

「メディア」とか「マスメディア」と言われるものには、まず、新聞や雑誌がある。これは、執筆者が書いた記事を集めて、印刷物として刊行するものだ。最近は、新聞や雑誌の記事をウェブで読むこともできる。次に、テレビやラジオがある。テレビは、テレビ番組を時系列に並べて、地上波や衛星放送の電波、CATVなどを使って視聴者に届ける。最近は、米国のニュース・サイトでもテレビのニュースのさわりの部分を見ることができる。ラジオも、従来からの放送のほか、インターネットで聞けるものもある。そして映画は、従来のように映画館で見るほか、DVDで見ることもでき、また、最近USENは、インターネットで映画の配信を始めた。

これらのメディアは、新聞や雑誌の記事、テレビやラジオの番組のような「コンテンツ」と、それをわれわれに届けてくれる、印刷物、放送、DVD、インターネットのような「媒体」からできている。「コンテンツ」を料理とすれば、「媒体」は、料理を入れて調理場から食卓の上まで運んでくる食器のようなものだ。

「メディア」という言葉は、もともとは「媒体」の意味だが、従来の新聞やテレビではコンテンツと媒体が11に対応していたので、コンテンツまで含めてメディアと言っても混乱することはなかった。ところが最近は、上に記したように、一つのコンテンツがいろいろな媒体を介して読者や視聴者に届くようになったので、両者をきちんと区別しないと議論が混乱する。

さらに状況を複雑にしているのは、従来のコンテンツと媒体の間に介在する「中継媒体」のようなものの出現である。例えば、CATVの映画のチャネルは、いろいろな映画を集めて一つのチャネルを構成している。また、たとえばライブドアのポータルサイトは、毎日新聞、ラジオNIKKEI、日刊スポーツなど、いろいろな報道機関から提供された記事を掲載している。これらの「中継媒体」も、それ自身コンテンツの一つである。料理で言えば、いろいろな料理を集めた定食コースのようなものだ。

統合すればうまくいくか?

上述のように、インターネットによるコンテンツの配信が最近どんどん増えている。では、コンテンツを制作する新聞、テレビ、映画などの会社と、インターネットを使ってコンテンツを配信するIT企業が統合して一つになったらうまくいくだろうか? 

コンテンツ制作会社が、自社や同一企業グループ内で配信も行うと、ほかの配信会社を介しての配信が難しくなる。コンテンツ制作会社は各配信会社と等距離を保っていた方が販路の拡大上有利だ。また、コンテンツを配信するIT企業が、自社でコンテンツの制作部門を持つと、他社のコンテンツを扱うのが困難になる。配信会社は、各コンテンツ制作会社から独立していた方が、品揃えの充実を図りやすい。そして、一つの配信会社で各社のコンテンツを入手できる方が利用者にとっても便利だ。

メディアの議論の混乱のもとは?

以上を踏まえて、今回のホリエモン騒ぎでのメディアについての議論を見てみよう。

堀江貴文氏の「最終的にはすべてインターネットになるわけだから、いかに新聞、テレビを殺していくかが問題」(「週間ダイヤモンド」)という発言に対して、立花隆氏は言う。「堀江ならびにライブドアの社員たちの最も重要な情報入手源は、日本の既成ニュースメディア全体なのである。」そして、「既成メディアの情報力は、第一線の取材記者群の取材能力にある。」そのため、「ネットはメディアを殺せない」1)

確かに既成メディアのコンテンツ制作力についてはその通りで、インターネットで簡単に死ぬものではない。しかし、メディアの媒体については、それがすべてインターネットにはならないとしても、従来のような印刷物とかテレビ放送から変わっていくだろう。たとえば、新聞や雑誌の記事をウェブで配信した方が、コスト、速報性の面で優れ、関連記事の参照、キーワードでの検索などの点で有利だからだ。堀江氏も、言葉の意味を明確にして発言しないと誤解を招く。

また、大前研一氏は言う。「私は、(堀江社長の)『ITと放送の融合』という経営方針はまったく評価していない。ほんの少し勉強すれば、ITとメディアにシナジーがないことはわかるはずだ。」1) 前述のように、IT企業とテレビ会社が統合すればうまくいくというわけではないので、そういう意味では、大前氏が言うようにシナジー効果は期待できない。しかし、インターネットは、現在テレビで放送されているコンテンツの配信手段の一つになりつつある。大前氏は、「テレビはソファーに寝そべってダラッと見るもので、パソコンに向かって前のめりになるインターネットとは両立しないのだ。」1) と言うが、今後は、テレビの映画や娯楽番組をインターネットで受信してホームサーバーに蓄えておき、居間のテレビで見たいときに見るのが普通になっていく。

メディアについて議論するときは、言葉の定義をもっと明確にしないと混乱する。そして、投資家としては、評論家はさておき、メディアやITの経営者が世の中の動きをどう判断し、何を狙っているのかをよく見極める必要がある。

 

1) 「平成ホリエモン事件」 文藝春秋、20055月号


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