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No.218                            酒 井 寿 紀                      2002/08/26


すべてがウェブ・サービスに?

 

最近は何でもウェブで見られるようになった。電気製品の仕様、列車の時刻表、市街地の詳しい地図、レストランやホテルの案内、天気予報、株価等をしょっちゅうウェブで見ている人も多いことだろう。

政府の統計や各種の委員会の議事録もほとんどウェブで公開されている。また、読む気になれば、聖書も、シェークスピアも、ディッケンズも、シャーロック・ホームズも無料で読むことができる。学術論文からポルノまで何でも陳列されているのがウェブだ。ウェブは21世紀の図書館で、百科事典も、年鑑も、文学全集も備え付けられている。

そして、以前は文字だけだったウェブに、絵や写真が入り、音が出るようになり、最近はアニメや動画も使えるようになった。

このようにウェブは当初は情報を受け取るだけだったが、最近はウェブを使って、商品やコンサートのチケットを買ったり、飛行機やホテルの予約をしたり、株の売買をしたり、銀行の口座間で資金を移動したりできるようになった。

以前は、例えば旧富士銀行のオンライン・バンキングは、専用のソフトをインストールし、インターネットを使わず直接銀行のセンターに電話で接続する必要があった。また旧三和銀行のものは、インターネットは使っていたが、やはり専用ソフトが必要だった。しかし最近は、両銀行ともインターネットと標準のブラウザだけで何でもできるようになり便利になった。

こうして、全世界で莫大な量の情報がウェブという統一規格の下に蓄積され、それは日に日に増大している。そして、ウェブを使った、企業と個人の間の取引、企業間の取引がどんどん増えている。ブラウザを窓口にして、全世界の情報から必要なものを取り出して使い、必要な取引ができるようになってきた。

このウェブの世界は今後どうなっていくのだろうか?

先ず、企業内の情報が今後どんどんウェブ化されていくだろう。

企業内の、受注・売上のデータ、社内規則、社内の電話帳等の情報を掲示したり、スケジュールを管理したりする道具として、グループウェアと呼ばれるソフトが使われていて、そのメーカーはそれぞれ特徴のある製品を出している。しかし、従来のグループウェアを使って、企業内の情報を見るためには専用のソフトを起動しなければならない。一方、社外の情報を調べるときはウェブを使うので、閲覧用にふたつのソフトを使う必要がある。これは不便だ。

企業内の情報がウェブになれば、社内の情報も、社外の情報も、ブラウザを起動するだけですべて見ることができ、パソコンに対する負荷も軽くなる。また、社内の情報から必要に応じて社外の情報を参照することもできるので便利である。

すでにサイボウズ等がウェブをベースにしたグループウェアの製品を出している。

こうなってくると、もうひとつのウェブの世界の変化としてウェブ・サービスの普及がある。

例えば飛行機の予約をする人は、レンタカーやホテルも同時に予約することが多いだろう。こういう時、従来はレンタカー会社やホテルのサイトで別に予約する必要があった。しかし最近は、航空会社のサイトで飛行機と同時にレンタカーやホテルの予約もできるところがある。

このように複数の企業が関係するサービスを、ウェブ・サイトに一定の規格を設けて、ウェブ・サイトを連携させて実現することをウェブ・サービスと呼んでいる。

ウェブ・サイト間で、予約や発注などの要求事項を送ったり、それに対する回答を受け取ったりする手順がSOAP (Simple Object Access Protocol)という規格で定められている。

またウェブ・サイトのサービス内容を記述する言語としてWSDL (Web Services Description Language)という規格が設けられている。

さらに、ウェブ・サービスを提供する全世界のサイトの登録台帳を作ることを目的としたUDDI (Universal Description, Discovery and Integration)というプロジェクトがあり、IBMMicrosoftSAPがすでに活動を開始している。

ウェブ・サービスとは、狭義には、このSOAP/WSDL/UDDIの規格に適合するサービスを言っているようだ。他の規格もあるようだが、SOAPWSDLW3Cというウェブの国際機関が制定したもので、IBMMicrosoftが積極的に推進しているので、今後のウェブ・サービスはこれらの規格によるものが主流になりそうだ。

このウェブ・サービスの重要な点は、サービスを提供するサーバーのハードウェアやOSやプログラム言語に依存せず、規格を満足する限り、Windows系でもUNIX系でもメインフレームでもいいことである。一部のサービスはまだメインフレームで提供を続けるところも多いと思うのでこれは重要なことである。

UDDIを使って全世界のサイトから要求にあったサービスを捜すことが、そんなにすぐ普及することはないだろう。しかし、企業内や、取引関係のある企業グループ内で、サービスを規格に合わせるのは、今後どんどん進むだろう。それは、今後ウェブの形で提供されるサービスが増え、ユーザーの高度な要求に応えるためには、ひとつのサービスの裏でいくつものウェブ・サイトを連携させて動かすのがウェブ・サイトの開発効率上得策だからである。

企業グループ内に限らす、検索エンジン、代金決済、認証サービス等、ウェブ・サイトの下働きを狙った汎用性のあるサービスについても規格への適合が進むだろう。

では、サーバーが提供するすべてのサービスがウェブ・サービスの形で提供されるようになるのだろうか?

そうはならないだろう。ウェブ・サービスの形で提供されるのは、個人向けのサービスのほか、企業では受注状況や社員情報の提供とか会議室の予約とかの非定型業務である。銀行の窓口とか小売店の店頭のように、朝から晩まで同じ業務にクライアントを使い続ける定型業務では、今までと同じようなクライアント/サーバー・システムが今後も使われるだろう。


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