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title.gif (1997 バイト)

No.116                            酒 井 寿 紀                      2001/07/28


今の日本はそんなに株安か?

 

7月23日の日経平均の終値は11,609円であった。翌朝の新聞は1985年以来の安値だと大騒ぎをしていた。一部の政治家は、やはり目先の景気対策を優先すべきだと言い出している。しかし、現在の日本の株価はそんなにとてつもない安値なのだろうか?

本誌No.108「米国の株価は回復するか?」で米国の株式市場の時価総額と米国のGDPを対比して見たが、本号では日本を代表する東証1部の時価総額と日本のGDPを対比してみよう。1955年以来の状況を下表に示す。

この表から何が分かるだろうか? この表をよく眺めてみよう。

1960年から79年の20年間の時価総額はGDPの0.19〜0.48倍である。フィギュア・スケートの採点と同様に、上下両極端のものを三つずつ異常値として除けば、0.22〜0.30倍である。つまり、大雑把に言えば、60〜70年代には時価総額は通常GDPの0.2〜0.3倍だった。

この20年間にGDPは、17兆円から225兆円へと、約13倍に増加している。それにもかかわらず、時価総額とGDPの比率が一定の範囲内にあったということは、経済のしくみが変わらなければ、時価総額は長期的にはGDPに比例して変動するものであることを示す。

ところが80年代に入り、80年末の0.29倍から89年末の1.42倍へと、10年間で4倍以上に一方的に増え続けてた。何かが変ったのだ。原因は何だったのだろう。

第一に考えられるのは資金調達方法の変化だろう。国鉄や電電公社が民営化され、資金調達が債券等から株式に変わった。また民間企業も、銀行からの借入から株式の発行へと直接金融の割合を増やしていった。エクィティー・ファイナンスが流行語となった時代である。

これは経済のしくみの変化に伴う、まともな増大である。

そして、もうひとつの大きい原因はバブルである。バブルが実体経済の伸びを無視して株価を吊り上げたのだ。

これらの二つの要因が、80年代の時価総額の異常な増大に、それぞれどの程度寄与したのだろうか? その分析は重要だ。そこから株価の適正水準を判断する手がかりが得られるからである。

極めて乱暴な話だが、仮に両者の寄与が同じと仮定するとどうなるだろうか? 80年の0.29と89年の1.42の幾何平均は0.64である。つまりバブルの影響を除いた時価総額の適正水準はGDPの0.64倍ということになる。90年代には企業の資金調達方法がそんなに変ってないと思われるので、この値は現在でも大差ないだろう。

そして、90年のバブル崩壊後、92年末に0.58倍まで下がり、95年末にはいったん0.70倍まで上がったが、98年には再び0.52倍迄落ちてしまった。99年末には0.86倍まで再上昇したが、それも続かず、昨年の2000年末には0.69倍まで下がった。そして、日経平均が安値をつけた7月23日の時価総額は334兆円で、2000年度のGDP 510兆円の0.65倍である。

これは先程触れた時価総額の適正水準に極めて近い。もちろんこれは乱暴な仮定の上の話なので、もっと精密な検討を要する。しかし、ここ40年の歴史を振り返って見ると、現在の時価総額は現在の経済活動の規模に比べてそんなに低いものではないと見ることができる。

では今後はどう対応するべきなのだろうか?

先ず、株価回復に対する過剰な期待を持つべきではない。基礎体力が回復してないのに、「景気回復最優先」と無理をしても、せいぜい2〜3年程度で化けの皮がはがれてしまうのはここ10年間の歴史が証明する通りである。

そして、時価総額はそんなに増えないとすると、産業構造の転換がもっと必要だ。オールド・エコノミーを整理・統合し、その金がニュー・エコノミーに回るようにしないと日本の将来はないだろう。

投資家にとっては、漫然と長期的に株を持っていれば必ず儲かった時代は終ったのである。

 

 

年次

時価総額

(兆円)

a

GDP

(兆円)

b

 

 

a/b

 

年次

時価総額

(兆円)

a

GDP

(兆円)

b

 

 

a/b

 

年次

時価総額

(兆円)

a

GDP

(兆円)

b

 

 

a/b

1955

1.1

8.6

0.13

1971

21.5

82.9

0.26

1987

325.5

362.0

0.90

1956

1.6

9.6

0.17

1972

46.0

96.5

0.48

1988

462.9

387.8

1.19

1957

1.7

11.1

0.15

1973

36.5

116.7

0.31

1989

590.9

416.9

1.42

1958

2.3

11.8

0.19

1974

34.4

138.5

0.25

1990

365.2

450.5

0.81

1959

3.8

13.9

0.27

1975

41.5

152.4

0.27

1991

365.9

474.6

0.77

1960

5.4

16.7

0.32

1976

50.8

171.3

0.30

1992

281.0

483.2

0.58

1961

5.5

20.2

0.27

1977

49.4

190.1

0.26

1993

313.6

487.5

0.64

1962

6.7

22.3

0.30

1978

62.7

208.6

0.30

1994

342.1

492.3

0.69

1963

6.7

26.2

0.26

1979

65.9

225.2

0.29

1995

350.2

502.0

0.70

1964

6.8

30.4

0.22

1980

73.2

248.6

0.29

1996

336.4

515.2

0.65

1965

7.9

33.8

0.23

1981

88.0

264.0

0.33

1997

273.9

520.2

0.53

1966

8.7

39.7

0.22

1982

93.6

277.0

0.34

1998

267.8

514.5

0.52

1967

8.6

46.4

0.19

1983

119.5

289.5

0.41

1999

442.4

513.7

0.86

1968

11.7

54.9

0.21

1984

154.8

309.6

0.50

2000

352.8

510.4

0.69

1969

16.7

65.1

0.26

1985

182.7

330.0

0.55

-

-

-

-

1970

15.1

75.3

0.20

1986

277.1

344.9

0.80

-

-

-

-
時価総額は東証1部の各年末の値(東証「証券統計年報」より)

GDPは各年度の値(内閣府 経済社会総合研究所の統計より)

[両者ともウェブで公開されている]


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