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写真と音楽データの保管にクラウドを使ってみて・・・

酒井ITビジネス研究所   酒井 寿紀    2018/10/20

無料クラウドサービスの利用は最小限に?

前号の「無料クラウドサービスが大流行だが・・・」という記事に、クラウドサービスにはデータの漏洩・消失などのリスクがあるため、その利用は極力控えるべきだと記した(1)。こうした考えから、小生はクラウドの利用を、アドレス帳、スケジュール管理、ブックマークだけに限ってきた。これらについては、リスクを超えるメリットがあると思われたからだ。

一方、写真や音楽データは端末側に保管し、必要に応じて他の端末にもコピーしてきた。ネットワーク上に保管するリスクを回避するためと、保管に使うデータ形式の自由度を確保したいためである。

しかし、端末側に保管するにもいろいろ問題がある。 

先ず近年は、パソコン、タブレット、スマートフォン等と、利用する端末の種類が増え、データを追加したり、端末を買い替えたりするたびにデータをコピーする必要がある。

そして、これらの端末を家族の構成員がそれぞれ持つようになった。そのため、家族の写真アルバムや家族で共通に聴きたい音楽データは、自分の端末だけでなく家族全員の端末にコピーしておきたい。

そこで今回、写真と音楽データの保管にGoogleのクラウドサービスを使ってみることにした。

「家族アカウント」を新設

Googleのクラウドで、他の端末とデータをシェアするには、いくつかの方法がある。

もっとも単純なのは、写真や音楽データが入っているGoogleのアカウントに他の端末からもログインして利用する方法だ。個人が専用に使っている端末間でのシェアならこれでまったく問題ない。

しかしこの方法は、家族間のデータのシェアには使えない。写真と音楽データについては、その全データをシェアすることにすれば一応は可能だが、電話帳等も統合されてしまう恐れがあるからだ。

もう一つの方法は、Googleが「Googleフォト」等に用意している「シェア(共有)」という機能を使うものだ。「Googleフォト」では、この機能を使って、指定した写真や全写真を、指定したアカウントとシェアできる。しかし写真は、関連した写真をまとめてアルバムにし、アルバムごとに名前を付けて整理しておくのが普通だと思うが、Googleの「シェア(共有)」の機能は、このアルバムの構成を他の端末にコピーできないので、使いものにならない。

そこで、個人のアカウントとは別に家族用のアカウントを新設して、写真や音楽データをこれに入れておくことにした。シェアしている写真や音楽データを利用する時は、家族もこのアカウントにログインする。しかし、このアカウントには電話帳やスケジュールは入ってないので、個人の㊙情報が家族に漏れることはない。

こういう「家族アカウント」が将来とも使えるかどうかは保証の限りでないが、少なくとも現在のところ問題なく使えている。

アルバムの並べ方が自由にならない!

こうして新設した家族アカウントの「Googleフォト」に、先ず、従来自分で管理していた写真のアルバムをアップロードした。

その時困ったのはアルバムを並べる順序が滅茶苦茶になってしまったことだ。従来、アルバム名の頭に撮影した年を付けてその順に並べていたが、Googleのクラウドのソフトはアルバム名を全く無視してしまう。では何を基準に並べているのだろうか?

ウェブ情報を調べたところ、アルバムを構成する写真の撮影年月から平均的年月を算出して、その順にアルバムを並べているらしいということが分かった。ここで問題は、写真の中には、最近撮った写真で撮影年月の情報を持っているもの、他の人からメールで送られてきたものや古い写真をスキャナで読み取ったもので撮影時期の情報がないもの、ソフトが勝手にファイル作成日等を撮影年月の欄に記入したものなど、いろいろあることだ。

ウェブ情報によると、この撮影年月を正しく記入する以外にアルバムの順序を変更する手段はないということなので、手間がかかったが手作業でいちいち記入した。実際の撮影年月が不明なものについてはだいたいの年月を推定して記入した。

アルバムの順序を自由に変えられないのはGoogleのソフトの致命的欠点だと思うが、こういう問題は道具に合わせて使い方を工夫するしかない。どういうわけかこのソフトは、アルバム内の写真の配列については、画面上で写真をドラッグすることによって簡単に変えられるようになっている。

このGoogleのソフトで便利なのは、写っている人の名前や撮影場所などを写真ごとに記入しておけることだ。古い写真が残っていても、どこで誰を撮ったものか分からないことがあるが、こうして記入しておけば子や孫が困ることはないだろう。

ビデオはMP4で

Googleフォトのクラウドには、ビデオも「MP4」のファイル形式で保管できる。最近スマートフォンで撮った動画はMP4なのでそのままアップロードできるが、前にビデオカメラで撮影したものはMP4ではないので、MP4に変換する必要がある。

DV規格のビデオカメラで撮影したビデオは、無料のソフトでMP4に変換してGoogleフォトで扱うことができた。それ以前のアナログ方式の8ミリビデオ等のものについてはどういう手段があるのか知らない。

古くからの8ミリ映画の愛好家で、昔の8ミリフィルムの映画の視聴手段に困っている人も多いことと思う。しかし、ディジタルのビデオデータについては、MP4に変換しておけば将来とも何らかの方法で視聴できそうだ。

音楽データも「家族アカウント」に

アップルのiTunesが現れた時、持っていたCDの楽曲はすべてパソコンのiTunesのファイルに入れた。その音楽データをタブレットや私と妻のスマートフォンにも入れて、ステレオのスピーカーやヘッドフォンで聴いていた。滞在先の宿泊施設のステレオにつないで聴くこともあった。

それ以降、新しくCDを買うことはほとんどなくなり、聴きたい曲があると、その曲だけiTunes Storeからダウンロードして聴いている。

音楽データは、作曲者や演奏者ごとにまとめてプレイリストに登録しておき、曲を捜すのに便利なようにしてある。音楽データを各端末にコピーするのも手間がかかるが、このプレイリストのコピーがなかなかうまく行かず、結局端末ごとに新規に作ることが多かった。

そこで、今回音楽データの管理に全面的にGoogleのクラウドを使ってみることにした。

感心したのは、アップルのiTunesの楽曲もプレイリストも、すべてGoogleのMusic Managerというソフトでクラウドに取り込めるようになっていることだ。音楽の世界ではアップルのiTunesが事実上の世界標準になっていて、Googleもこれを無視するわけにはいかなかったのだろう。

DRMはダメよ!

上に、iTunesの音楽データをすべて取り込めたと書いたが、これには例外が何曲かあり、初期にiTunes Storeで購入した曲はDRM(著作権管理)の鍵がかかっているためコピーできない。

元々CDは自由にコピーできるのに、オンラインで購入した楽曲をコピー不能にしたのは、消費者の正当な権利を奪うレコード会社の横暴だ。一部の犯罪者による不正コピーを防止するために、善良な消費者が正当な権利を奪われることは許されない。なお、「レコード会社」と言っても現在はレコードを売ってないのだが、他に適当な言葉がないので今でもこう呼ばれているようだ。英語圏では"label"、日本では「レーベル」とも言われる。

世界中で行われていたこの慣行を変えたのはアップルのSteve Jobsが2007年2月に発表した一文である(2)。その結果、iTunesでは2007年以降順次DRMが除去され、2009年には完全になくなった。Steve Jobsの偉大な功績の一つだ。

ファイル改変の権限を管理する機能が必要

現在のGoogleのクラウドは、同じアカウントを使うどの端末からでもデータを改変できる。例えば、家族の写真や音楽データを「家族アカウント」で子や孫のスマートフォンからも視聴できるようにすれば、子や孫が操作を誤ってクラウドのデータを消してしまう恐れがある。利用者の一人が責任を持ってそれを防止しようとしても、その手段がない。

一つのアカウントを複数の人が利用することを想定してなかったのでこうなっているのだろう。そういう意味で、「家族アカウント」はGoogleの想定外の使い方であり、今後どう扱われるかは不透明だ。

しかし、ここに記したような「家族アカウント」には潜在ニーズがあると思われる。Googleがその有用性を認めるならば、ファイルを改変する権限をきちんと管理する機能を追加するべきだ。例えば、Windowsの「ファイル共有」にはこういう機能が用意されている。

「家族アカウント」は遺産相続にも使える?

従来、家族の写真は紙製のアルバムで、子から孫へと伝えられてきた。現在、紙のアルバムがほとんどなくなってしまったので、今までのように家族の写真を子や孫に残そうとしたら、「家族アカウント」のようなものを使うしかないかもしれない。こういうものを使わず、ただ個人のパソコンのディスクに保管されているだけでは、遺族が目的物を捜すのがなかなか難しいだろう。最悪の場合、パソコンにログインすることもできないかも知れない。

そして「家族アカウント」を使えば、従来の紙のアルバムでは手間がかかった、写っている人の名前、撮影場所、撮影日時等の記入も容易にできる。

また従来、個人が所蔵するレコードが遺産として子や孫に引き継がれてきた。しかし、オンラインで購入した音楽データは、何もしなければ購入者の死亡と共にこの世からなくなる。

これも「家族アカウント」に入れておけば、従来のレコードやCDと同じように遺産として子孫に残せるだろう。

そして、これは写真や音楽データに限らず、電子書籍や系図等を子孫に伝えるためにも使えるかも知れない。

 

[関連記事]

(1) 酒井寿紀、「無料クラウドサービスが大流行だが・・・」、Tosky's IT Review、2018/9/5

(2)  "Apple CEO Steve Jobs’ posts rare open letter: ‘Thoughts on Music’ – calls for DRM-free music", MacDailyNews, February 6, 2007


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