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Teslaの自動運転車の事故・・・防止策は?

酒井ITビジネス研究所   酒井 寿紀    2018/6/5 

車線を分離するコンクリート壁に激突

今年(2018年)3月23日、カリフォルニア州マウンテンビューで自動運転のTeslaモデルXが車線を分離するコンクリート壁に激突して炎上し、運転者が死亡した(1)

事故が発生したのは、国道101号とカリフォルニア州道85号が分岐する地点で、運転者は101号を北西方向から来て、分岐点で85号に乗り移り南に向かおうとしていたと思われる。(右はGoogle Mapsによる同地点の航空写真である)

小生は30年ほど前にこの付近を何回も通ったことがあるが、現在の道路の状況を見たわけではない。しかし、Googleのストリートビューで最近の道路の状況を詳しく見ることができる。

それによると、101号にも85号にも「カープール車線」と呼ばれるものが用意されている。これは、2人以上乗っているクルマやEV車だけが走れる車線だ。カープール車線は最も中央分離帯寄り(米国は右側通行なので、最も左寄り)に設けられている。

 

南東方向に向かう101号のカープール車線は85号との分岐点までは2車線あり、右側の車線は101号を直進するクルマ用、左側の車線は85号へ向かうクルマ用と標識に表示されている。(左の写真参照)

 

この左側のカープール車線を走っていれば、高架道路で101号の上を横切って、85号のカープール車線に乗り移れる。(右の写真は101号の左側のカープール車線で、この先が高架道路になっていて101号の上を右に横切っているのが見える)

101号から85号に出るには右方向に向かうことになるが、この接続用の高架道路によって、一般車用の車線を一度も使うことなく、101号のカープール車線から85号のカープール車線に直接移れるので極めて便利だ。

しかし、ここで事故が起きた。101号から85号に向かう車線が分岐するところは、右の写真のように、長い三角形で徐々に分離され、その先にコンクリート壁がある。その壁の先端に高速のまま正面衝突したという。

コンクリート壁の先端には、万一衝突した時の衝撃を緩和するために緩衝器が設置されていたが、前の事故で破損したままになっていた。これが今回の事故の被害をより大きくしたという。

再現実験に成功?

今回の事故の犠牲者の家族は、この犠牲者が前から同じ場所で何回も事故を起こしそうになったと、Teslaの自動運転機構の問題を指摘していたという(1)

最も安全なはずの、平面交差がない自動車専用道路で、このような事故が起きたのはなぜなのだろうか? 疑問に思った人が多いようで、何人かの人が事故発生地点やそれに類似したところで事故の再現実験を試みている。

その一人は、事故発生地点でTeslaの自動運転機能を使ってみたところ、危うく事故を起こしそうになったと報告している。また、シカゴ付近の類似の場所でも同様な誤動作が報告されている。

Tesla社は、毎日200台以上の自動運転のTeslaが事故発生地点を問題なく通過していると言っている(2)。従って、問題があるとしても、ある特定の条件下なのだろうが、その条件が何かは現在不明だ。

これらの再現実験の報告者によると、Teslaの自動運転機構は左に分岐する車線の左側の白線に沿って走ろうとするが、その車線の右側の白線を左側の白線と取り違え、さらにその右の、車線ではないところを走った結果、コンクリート壁の先端に衝突してしまったのではないかということだ。

これらの点から、Teslaの自動運転機構に改善すべき点があるのは確かなようだ。これについては、いずれ原因が判明し改善されるだろう。

ここでは、この「白線の見誤り」の問題は別にして、他にもこの事故の防止策がないかを考えてみよう。以下に4点を挙げる。

判断に迷ったら警告を!

Tesla社は、常にハンドルに手を置き、いつでも即座に対応できること要求している。そして、今回の事故について次のように言っている。

「運転者は『ハンドルに触れなさい』という音声と表示による警告を何回も無視し、事故発生直前の6秒間ハンドルに触れていない(3)

しかし、現在の自動運転機構がベータ版だと言っても、これではあまりにもレベルが低すぎる。警告が多すぎれば、慣れっこになってしまい無視することになりがちだ。

自動運転機構は、多くのセンサからの情報を使って、運転操作を決定していると思われるが、安全性を高めるため、極力多数の情報から総合的に判断するようにするべきだ。例えば今回の事故について言われているように車線の片側だけでなく、両側の白線を検知して車線の中央を走行していることを確認すべきだ。片側だけでは、塗装の劣化や積雪で白線が見にくい時に危険である。

また、太陽に向かって走る時など、一時的にカメラや光センサが正常に動作しないことがある。

こういう、一部のセンサが正常に働かず、判断に疑問がある時は、運転者に警告を発するべきだ。

2016年の フロリダの事故では、前方を横切ったトレーラの側面とフロリダの明るい空の区別ができず、Teslaがトレーラの側面に高速のまま衝突して、運転者が即死したと言われている。これも、前方の明るい部分の面積の異常な広がりや、色を適切に判断していれば、事故を防げたかも知れない。

一定の時間間隔で警告を鳴らされたら煩わしくて仕方ないが、こういう意味のある警告は重要であろう。

道路標識に従って、適切な車線を!

そもそも今回の事故は、道路標識に従って85号に向かう車線を走っていれば、起きるはずがないものだ。前掲の写真の道路標識を読み取って車線を選んでも、カーナビのデータベースから適切な車線を選んでもよい。85号へ向かう車線を走っていれば、何もしなくてもひとりでに85号のカープール車線に移れる。

どうしてこれができなかったのかは不明だが、今回のような事故が起きたのは、分岐点の直前まで101号を直進する車線を走っていて、分岐点のところで85号へ向かう車線に移ろうとして、その車線を示す白線を見誤ったとしか考えられないように思う。

白線の見誤りも困ったものだが、米国のように車線数が多い道路がたくさんあるところでは、適切な車線を選ぶことが安全上非常に重要である。これは、人間が運転する時も、自動運転でも同じだ。

路面の表示を分かりやすく!

前掲のストリートビューの写真を見ると、85号へ向かう車線と101号を直進する車線が分かれるところが、非常に長い三角形になっていてその先にコンクリート壁がある。この三角地帯はもちろんクルマが走ってはいけないところだ。しかし航空写真で見ると、この三角地帯の長さは200m近くあるため、両側の白線はほぼ平行に近く、ここを車線と見誤るおそれがある。

こういう誤判断は自動運転に限らず、プロの運転手も犯している。2016年1月に、101号と85号の別の分岐点で、バスの運転手が同じような三角地帯を車線と勘違いして、コンクリート壁に正面衝突して横転し、乗客の女性2名が死亡した(4)

こういう三角地帯には縞模様を描くとか、色を変えるとかして、人間にも機械にも車線ではないことを容易に判断できるようにすべきだ。これに限らず、今後は道路標識や路面の表示を、人間のみならず機械にも分かりやすいものにすることが重要である。そして自動運転機構は、これらの情報を正しく読み取って、状況判断の精度を高めるべきだ。 

障害物を見つけたらブレーキを!

今回の事故で、道路標識の無視や車線の白線の見誤りも問題だが、最も理解できないのはコンクリート壁に激突するまでブレーキをかけた形跡がないことだ。前方の障害物を検知した時に適切にブレーキをかけていれば、ここまでひどい事故にはならなかったと思われる。

運転していれば、落石や倒木、雪の吹き溜まりや前車の落下物で通行を妨げられることがある。また、事故車や故障車が道をふさいでいることもある。こういう場合には、人間も機械も、何はさておき、まずブレーキをかけることが必要だ。

この点、Teslaの自動運転機構はどうなっているのだろうか?

「安全性」と「利便性」のトレードオフについて真剣な議論を!

種々の問題を起こしつつも、自動運転技術の開発と普及に邁進しているTeslaには敬意を表したい。老舗の大企業にはなかなか真似できないことだ。

特に日本では、一たび大事故が起きると、経営者は、「あってはならない事故が起きた。今後、二度と再び起きないようにします」と言わざるを得ない風潮がある。技術の歴史を振り返れば、そんなことは絶対に不可能なことを承知しつつ・・・

「絶対安全」を何十年も毎日毎日言い続けてきた結果、「危険性」の存在についてのまともな議論ができなくなり、その結果、東日本大震災の原発事故を招いてしまった。

「安全性」は非常に重要だが、「安全性」と「利便性」のトレードオフを真剣に考える方がもっと重要である。「絶対安全」等というものはこの世に存在しないのだ。 

 

[関連記事]

(1)  "Tesla: Autopilot was on during deadly Mountain View crash", March 30, 2018, The Mercury News

(2)  "What We Know About Last Week's Accident", March 27, 2018, Tesla

(3)  "An Update on Last Week’s Accident", March 30, 2018, Tesla

(4)  "San Jose fatal crash: Bad lane markings sent Greyhound bus into barrier, report says", March 28, 2017, The Mercury News


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