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自動運転雑感

酒井ITビジネス研究所   酒井 寿紀    2017/08/28 

最近の主な出来事から

アウディが自動運転車の発売を発表

本年(2017年)7月11日、アウディが来年から自動運転が可能な「A8」を発売すると発表した。一定の条件の下だが、ドライバの手助けなしに完全に自動で走れる「レベル3」の自動運転車としては世界で初めてだ(1)

一定の条件とは、時速60km以下だという。従って、時速100kmをはるかに超えるスピードで走っているクルマが多いドイツのアウトバーンでは、渋滞時か、出入り口でしか使えない。しかし、この条件下なら、ハンドルに全く手を触れなくてもよいという。テレビを見たり、メールを処理したりすることもできる。但し、これはクルマ自体の性能の話で、実際には国ごとの法律によって制約を受けることもある。

レベル3の自動運転車が走行するためには法律の改正が必要なため、実際の発売時期は国によって異なる。日本の現行の道路交通法ではレベル3のクルマは走れないので、日本で来年発売というのは難しいかもしれない。

アウディに続いて他の自動車会社も、今後続々とレベル3以上の自動運転車を発売するものと思われる。

ドイツが道路交通法を改定

ドイツでは、日本の「道路交通法」に相当する法律が改正され、レベル3以上の自動運転車が公道を走れるようになった。この改正は今年6月21日から施行されている(2),(3)

但し、運転の全責任を負うのはあくまでドライバで、その下で、自動運転時は自動車メーカーが責任を負うことになる。従って今回の改正には、ドライバがいないクルマや、ハンドルやブレーキペダルのないクルマの走行は含まれない。

ドイツが世界の先陣を切ってこの法改正を行ったのは、自動車産業が同国の経済を支える大きな柱であり、将来も自動車産業のリーダーとしての位置付けを他国に渡したくないという強い願望のためだと言われている。

テスラの死亡事故の調査結果が判明

テスラの「モデルS」が、昨年5月、自動運転車としてはじめてフロリダで死亡事故を起こし、米国のNTSB (National Transportation Safety Board)によるその調査結果が本年6月に公表された(4)

それによると、モデルSはUS27という広い中央分離帯のある国道を走っていた。ところがこの道路には信号のない平面交差があり、対向車線を走ってきたトレーラが、モデルSの前で左折して(右側通行なのでモデルSの車線を横切って)狭い道に入ろうとした。モデルSの自動運転機構もドライバもこのトレーラに気付かず、時速74マイル(118km)で走っていたモデルSは、ブレーキもかけずにトレーラの下を走り抜けて道路脇のフェンスを突き破り、ドライバは即死したという。

この調査報告は事実関係の確認だけで、事故原因や再発防止策については言及していない。しかし、いろいろなことが明らかになった。

テスラは事故当初、モデルSがフロリダの明るい空とトレーラの白い側面を識別できなかったのが事故の原因だと言っていた。しかしこのクルマの自動運転機構は、元々平面交差のある道路での使用を想定していないものだったという。 そのため、自動運転の性能には制約があり、ドライバは常にハンドルに手を置いていることが要求されていた。しかし事故を起こしたモデルSのドライバは、自動運転の37分中、25秒間だけしかハンドルに手を触れていなかったという。そして、この間警告メッセージが7回表示され、警告音が6回鳴ったが、すべて無視されたという。

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これらの最近の出来事は、自動運転についていろいろな問題を提起している。そのいくつかを取り上げよう。

自動運転中か否か?

クルマが自動運転機能を生かすためには、現在自動運転中か否かが明確になっていなければならない。またこれは、事故の責任がドライバにあるか自動車会社にあるかを明確にするためにも必要である。これは単純な問題のようだが、実はそうでもない。

ドライバの中には、時と場合によって自動運転を使いたくない人もいるから、この機能のオン/オフは先ずドライバが行うことになる。そして、クルマがその走行状態から自動運転を行えない場合は、クルマが自動的にこの機能をオフにする。アウディA8でスピードが時速60kmを超えた時などだ。

これらのケースはあまり問題がない。しかし、下記のように問題となるケースもある。

自動車会社や法令が自動運転を禁じるケース

第一は、例えば上記のテスラ・モデルSのように、元々平面交差のある道路での自動運転を想定してないクルマを、そういう道路で自動運転モードで走らせる場合などだ。自動車メーカーの規定による場合の他、今後は道路交通法が禁じるケースがでてくる。

ドイツの新しい法令では、「自動運転は自動車メーカーが規定する方法に従って使うこと」と記されているので、仮にこれを適用すれば、事故を起こしたテスラ・モデルSは、法律上も自動運転モードをオフにしていなければならなかったことになる。

しかし、自動運転モードがどうなっているかは外から分からないので、スピード違反のように取り締まるのは難しい。

一つの方法は、自動運転モードがどうなっているかを外から識別できるように外部に表示させることだろう。そうすれば、権利団体の反発を招くかもしれないが、パトカーがその表示と車種から違犯車を摘発できる。

この外部表示は、周りを走っているクルマにもメリットがある。自動運転車は、無茶な運転をせず、一定のルールの下で安全な運転をすることが広く一般に認められれば、その後ろを走りたいという人が増えるのではなかろうか?

しかし、いくら取り締まってもスピード違反がなくならないように、取り締まりの強化だけでは、禁じられている道を自動運転で走るクルマはなくならないだろう。根本的対策としては、完全な自動車専用道路から一般道路までをいくつかのグレードに分けてカーナビの地図に記憶させておき、自動運転機構はその情報に基づいて、定められたグレード以上の道路でしか自動運転モードを使えなくすることが考えられる。

突発的に自動運転機構が働かないケース

次に、自動運転機構も機械の一種なので、正しい判断ができないケースがあり得ることだ。テスラ・モデルSの自動運転機構は、元々平面交差がある道路での走行を前提としたものではないが、たとえこれを前提としていても、このような事故は起こり得ると思われる。

小生はスバルの衝突防止機構付きのクルマに乗っているが、ある時、強い西日を真正面から受けて走っていると、突然ダッシュボードの表示が真っ赤になって驚いたことがある。しばらくすると元に戻ったが、後日セールスマンに聞くと、前方のカメラがあまりに強い光を受けると、衝突防止機構が働かなくなるため、警告として赤色で表示するようになっているとのことだった。クルマのセンサも人間の目と同じで、突然フラッシュのような強い光を受けると目がくらむようだ。小生のクルマは自動運転車ではないが、自動運転車でも同じようなことがあるだろう。

こういう場合、自動運転車は、直ちに自動運転モードをオフにするとともに、ドライバに警告を発することになるだろう。したがって、ドライバは自動運転モードで走行中も、常にとっさの緊急対応ができるよう心掛ける必要がある。これは、機械には故障や誤動作がつきものであることからも重要だ。

「直ちに人手運転に戻れる」とは?

上に、自動運転中も、ドライバは常に緊急事態に備える必要があると記した。しかし、この件については世の中の意見が分かれている。自動運転中でも常にハンドルに手を置いていることを要請するものから、アウディA8のように、法律さえ許せばテレビを見ていても構わないというものまで様々だ。

ドイツの新しい法律では、「自動運転機構が要求した時や、要求がなくてもドライバが必要を認めた時は、直ちに人手運転(自動運転を使わないモード)に切り替えられること」と記されているという。これについては、ドライバが常時全責任を負うことになり、不当だという意見が審議中に出たようだ。この規定を厳密に実行しようとすると、ドライバは常に前後左右に目を配っている必要があり、自動運転のメリットがなくなるという意見である。

こういう要求を踏まえ、最終的にはドライバは、(寝ていてはいけないが)「適正な時間」注意をそらすことが認められたという。審議過程では、「適正な時間」とは2~5秒程度との話が出たそうだ。しかし、時速30kmの時と130kmの時では2~5秒の意味がまるで違う。そのため、最終的には裁判所の判断にゆだねられることになるだろうという。

いずれにしても、本件についてどういう扱いがドライバ、自動車会社、行政機関にとって望ましいかはまだ明確になっていない。自動運転の使い方が社会全体に定着するにはまだ10~20年かかりそうだ。

国民性にもよる?

テスラの死亡事故のドライバが、モデルSの自動運転機構についてどこまで知っていたのかは分からない。しかし、当時テスラはこれを「運転支援機構」と称し、完全な自動運転ができるレベルには達してないことを表明していた。また、この「運転支援機構」は交差点のない自動車専用道路での使用を前提にしていた。

こういうケースに出会うと、2種類の人間がいるようだ。

第一の種類は、自動車会社や政府の言うことをよく守り、それに反することは極力避けようとする。赤信号の時は道路を横断しない日本人や、アウトバーンでは絶対に右側車線で追い越さないドイツ人にはこのタイプが多いようだ。いわば、「真面目人間」、「優等生」だ。

一方、規則や法律に縛られるのを嫌い、自分が問題ないと判断したことは自己責任の下で何でもやってしまう人達がいる。歩行者用信号など無視して、クルマが来なければどんどん道路を横断する欧米人などだ。言ってみれば、「不真面目人間」、「不良少年」だが、ここでは穏当に「自由人」としておこう。

「自由人」は制約や束縛を嫌う。法律上の扱いは知らないが、最近街なかをカートを連ねて集団で走っている人を見かけた。また、クルマで混雑した新宿の街をセグウェイでスイスイと走っている人もいた。両者とも乗っていたのは外国人だ。どうも外国人の方が、「自由人」が多いようだ。

モデルSのドライバもこういう「自由人」の一人かも知れない。「テスラの『運転支援機構』は交差点のない自動車専用道路を前提にしたものだというが、そうでない道路で使っても、何の問題もなかった。・・・よし、どこまで使えるか、やってみよう」と思ったのかも知れない。

私もフロリダで運転したことがあるが、どこまでも一直線に続く道路での運転は単調極まりなく、自動運転機能を使いたくなる気持ちがよく分かる。直進車の優先権を守らず、無理に左折しようとしたトレーラにさえ出くわさなければ、モデルSは何事もなくドライブを続けられただろう。

「自由人」は自己責任の下に何でもやってみようとする「パイオニア精神」の持ち主だ。科学技術の進歩はこういう「自由人」に支えられてきた面もある。「優等生」だけの集団では、新技術はなかなか育たない。

自動運転と人手運転、いずれがより安全か?

自動運転もロボットの一つで、機械に人間の真似をさせることから始まった。真似は、自動車専用道路での追従運転から始まり、次に自動でレーンの変更ができるようになった。そして、やがて一般道路での信号や標識に従った運転ができるようになる。

次に問題になるのが、様々な異常事態への対応だ;

  ・ クルマ、人、動物等が飛び出して来た時

  ・ 道路に落石、倒木、土砂崩れがあったり、橋やトンネルの崩落等があった時

  ・ 走行中に地震や竜巻等に遭遇した時

これらの異常事態への対応は、人間でも機械でも絶対に不可能な場合もあるが、いずれ人間並みなことは機械にもできるようになるだろう。

ただ、横から飛び出してきたのが、人間の子供だったら、追突やスリップの恐れがあっても急ブレーキをかけるが、小動物だったら、轢いてしまって他車や構築物との衝突を回避するというような判断は、純粋に技術的な問題ではなくなるので、機械には困難だ。

そして、これらとは別に、人間のドライバが無意識的に対応している様々な特殊ケースがある;

  ・ イベント会場等で、印のない空き地に隅から順に整然と駐車する。

   ・ ヨーロッパの街ように、駐車済みのクルマの帰宅時間を知っていて、それを考慮して、二重駐車、三重駐車をする。

  ・ 別荘地などで、住人の出入りの邪魔にならないような空き地を見つけて駐車する。

こういう判断に必要な情報は、自動運転機構のセンサからは得られないので、自動運転機構に期待するのは難しい。しかし、物理的に獲得可能な情報だけで判断できる場合は、自動運転機構がいずれ人間を凌駕し、自動運転車の方が人手運転車よりも安全だという日が遠からず来るだろう。

そして、 自動運転のレーシングカーがレーサーが運転するマシンを破る日がいずれ来るかも知れない。チェスや将棋や囲碁と同じように・・・     

課題は人間と機械の適正な分業

前にも記したように、自動運転はロボットの一種だ。ロボットの効率よい使い方は、長年の使用経験から分かってきた。

  ・ 単純な繰り返し作業は、人間よりロボットの方が得意だ。一方、まだロボットにはできず、職人の名人技に頼らざるを得ない作業もある。

  ・ 来訪者の受付も、単純な業務や簡単な質疑/応答はロボットで充分だ。しかし、どうしても人間でないと対応できないこともある。

クルマの運転も、通常の操作は近年中に機械ができるようになるだろう。いや、反応速度の点やスリップを避けつつブレーキをかける能力などの点では、人間の能力をはるかに超えるだろう。しかし、上にも記したように、人間は機械が検知できないような周りの状況も踏まえて判断していることもある。

そういう意味で、ドイツの新しい法令が最終的な責任は常にドライバにあるとしているのは妥当だと思われる。そういう条件の下で、自動車会社にどういう責任を持たせるかは今後さらに明確にする必要がある。

 

[関連記事]

(1)  "The new Audi A8: future of the luxury class",  Audi, 2017/7/11

(2)  "German Bundestag adopts law on automatic driving", Noerr, 2017/4/5

(3)  "Germany Permits Automated Vehicles", White & Case, 2017/6/23

(4)  "Fatal Tesla Crash: That’s Not All, Folks", EE Times, 2017/6/27


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