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No.607                     酒井ITビジネス研究所  酒井 寿紀                      2006/10/21


携帯電話のウェブはどうなる?

 

携帯電話のウェブにも開国の兆し?

携帯電話用のウェブサイトには「公式サイト」と「一般サイト」と言われるものがある。「公式サイト」とは通信事業者公認のサイトで、通信事業者のポータルサイトからディレクトリを階層的にたどって捜すことができる。有料サイトの場合は通信事業者が電話代といっしょに料金の徴収を行う。そして、公式サイトは通信事業者によって囲い込まれ、パソコンや他社の携帯電話端末からは一般に見ることができない。一方、「一般サイト」は通信事業者に関係なく、コンテンツ・プロバイダーが勝手に作ったサイトである。そのため「勝手サイト」とも呼ばれる。そして、どの携帯電話端末やパソコンからも見ることができる。

筆者は5年前に、「Tosky’s MONEY(No.104)iモード開国!?」(2001/02/18)に「公式サイトはもう要らない」と書いた。サイト数がどんどん増えれば、一企業がその内容を審査することなど実質上不可能になり、また、インターネット上のコンテンツはどの通信事業者の端末からも閲覧できることが望ましいのがその理由だった。そして、鎖国状態のドコモの国は開国されるべきだ、と書いた。

しかし、この鎖国状態は、ドコモ以外の携帯電話会社も含めて、その後もずっと続いた。むしろ各社は、コンテンツの充実をユーザー獲得の強力な武器と考え、コンテンツ担当の事業本部などを設置し、従来以上にコンテンツに力を入れてきた。

しかし最近この鎖国状態に多少変化の兆候が現れた。KDDIの携帯電話では、今年7月からポータルサイトで、Googleを使って、一般サイトを含めてサイトの検索ができるようになった。また、NTTドコモの携帯電話でも、10月からGoogleなどで一般サイトの検索ができるようになった。ソフトバンク(旧ボーダフォン)の携帯電話でもYahoo!モバイルで検索できる。従来は一般サイトを見ようとすると、そのサイトのURLを調べて、それを入力しなければならず、非常に面倒だった。しかし、最近このように、ポータルサイトでパソコンと同じように検索エンジンが使えるようになったので、サイトの検索が容易になり、URLの入力も不要になった。

今後の方向は?

なぜ最近になって鎖国状態をやめ、一般サイトを公式サイトと平等に扱うようになってきたのだろうか? そして、今後はどういう方向に進むべきなのだろうか? 

最近の開国の第一の理由は、一般サイトが急激に増えたためである。NTTドコモによると、今年6月の全ページビューのうち約3/4が一般サイトだという。ポータルサイトのディレクトリでは一般サイトは捜せないため、このように一般サイトが多くなると、パソコンと同じように、Googleなどのロボット検索が要求されるようになる。

一方、通信事業者の方も、公式サイトをこれ以上増やすのはだんだん難しくなり、むしろ一般サイトの増加によってユーザーの要求に応え、それによってユーザー数を増やした方が賢明だと気付いたのだろう。

ユーザーは携帯電話向けコンテンツの拡充を望んでいるのだが、パソコンで閲覧できるコンテンツの量や質に比べれば、携帯電話のコンテンツはまだ極めて貧弱だ。コンテンツをさらに充実させるためには、通信事業から独立したコンテンツ市場を育成する必要がある。そして、パソコンのウェブの世界と同じように、全世界の携帯電話用コンテンツをどの携帯電話端末からも見ることができるようになることが望まれる。いずれ「公式サイト」という言葉は死語になるだろう。

最近鎖国状態が崩れ始めた第2の理由に、携帯電話の通信速度の向上とパケット定額制の普及で、大容量のデータ転送が可能になり、携帯電話のウェブページでも画像を使った広告が一般化したことがある。そのため、携帯電話でも広告付きの無料サイトが増え、無料になれば、料金徴収のために通信事業者に公式サイトとして扱ってもらう必要もなくなる。

パソコンのウェブで、ニュース、株価、天気予報、地図、辞書などの高度な情報が無料で提供されるようになったのに、携帯電話ではそれより数段程度の低い情報が有料なのはおかしい。米国などでは携帯電話でも無料が普通のようだ。

現在の携帯電話のウェブの世界は、パソコンのウェブではそれぞれ別の企業から提供されている、パソコン、OS、ブラウザ、通信回線、プロバイダーがすべて通信事業者によって提供されている。さらにその通信事業者は、公式サイトのコンテンツ・プロバイダーでもあり、また広告代理店の機能も果たしている。いわば、究極の垂直統合の世界で、通信事業者ごとに完全に縦割りの別世界を築いている。携帯電話の勃興期には、これにはそれなりの意義があったのだが、多様化する顧客ニーズに応え、得意分野に経営資源を集中して経営効率を上げるためには、今後水平分業に切り変わっていく必要がある。

現在、携帯電話のウェブの活用では日本は世界のトップの座を占めている。しかし、いずれ他の国が追いかけてくるのは間違いない。日本は今までに、他の国に先行して特徴ある技術を生み出したが、やがて世界の主流から取り残されて、うまくいかなかったものが多い。例えば、アナログ方式のHDTVPDC方式の携帯電話、PHSなどがそうだ。携帯電話のウェブでも、気がついたら世界の孤児になっていたということにならないよう、技術の面でも、ビジネス・モデルの面でも世界の主流となる方向に進める必要がある。


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