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No.604                     酒井ITビジネス研究所  酒井 寿紀                      2006/06/11


商品用ICタグはどうなる?

 

商品用ICタグの最近の動き

小売店で販売される商品に付けるICタグについては、1999年にMITの中にAuto-ID Centerという組織が設立され、EPC (Electronic Product Code)という標準規格が制定された。そして、Alien Technologyなどのメーカーがこの規格に適合した安いICタグの開発を推進してきた。1) 20036月にはWal-MartがこのICタグの装着を納入業者に義務付けると発表した。200311月にはAuto-ID Centerの業務がEPCglobal (AutoID Inc.を改称)という組織に引継がれた。この組織は全世界の商品用のバーコードを共同で管理しているGS1 (EAN International)GS1 US (UCC)の合弁である。2) この商品用ICタグはその後どうなったのだろうか?

EPCの規格については、当初のGeneration1 (Gen1)に対し、Gen2200412月に制定された。これはGen1に対し、データ転送速度の高速化、商品識別コードのビット数の拡張などを行ったものである。今後はすべてGen2に移行していく。

Wal-Martでは、20051月から100あまりの納入業者にEPCが適用された。20061月にはそれが約300社に増え、20071月には600社以上になる計画である。また、2006年末までには1,000以上の店舗とディストリビューション・センターでRFIDが使われる予定という。アーカンソー大学の調査によるとEPCの導入によりWal-Martの店舗での品切れ率は平均16%改善されたという。Wal-Martは現在Gen2への切り替え中で、2006年半ばにはGen1は使わなくなるということだ。

米国の小売業界ではTargetBest BuyEPCの適用を推進している。TargetWal-Martは一部の納入業者間でEPCデータの共通化を図っている。これは流通業界全体でのEPCデータの共通化に発展して行く可能性がある。

現在はWal-Martなど、個別商品でなく、商品を収納したケースやパレットにEPCのタグを付けているところが多い。しかし、Best Buyは一部の商品について個別商品へのタグの適用を試行している。

ヨーロッパではドイツのMetroグループが2003年から一部の店舗でGen1EPCタグを使ってきた。今年5月には22の店舗やディストリビューション・センターでタグを使っている。現在Gen2への切り換え中ということだ。

イギリスのMarks & Spencer2003年からEPCタグを個別の衣料品などに使ってきた。現在その適用を拡大しつつある。

日本では今年5月からヨドバシカメラが川崎の物流センターでGen2EPCタグを使い出した。

今後の課題は?

では、上記のWal-Martをはじめとする動きが今後全世界にどんどん広がって行くのだろうか? 話はそれほど単純ではないようだ。

一つの問題は北米とヨーロッパ、日本などで電波の割り当てが違うことである。Gen2860960MHzUHF帯を使うことになっている。この周波数帯で、北米では26MHzの帯域が使えるのに対してEUや日本では2MHzの帯域しか使えない。そのため、多数のリーダーを使用する際の相互干渉防止に、ヨーロッパや日本では、北米で使われている周波数ホッピングの技術が使えない。現在、Metroやヨドバシカメラは、性能を多少犠牲にしてLBT (Listen Before Talk)という方式で対処している。

今年5月にEUETSI (European Telecommunications Standards Institute)は、RFIDの電波規制は長期的にどうあるべきかという議論を始めた。EPCの適用で先行していた英国の小売業のTescoが当初の計画を遅らせているのは、この辺の動向を見極めたいという考えによるものと思われる。

もう一つの問題は個別商品へのICタグの装着である。もともとEPCのタグは個別商品への装着を念頭に置いたものだった。しかし、当初はICタグがまだ充分安くなかったため、Wal-Martなどはまず商品のケースやパレットに適用することにした。Gen2の規格は本目的にかなったものである。

その後ICタグが安くなり、Wal-Martなどが個別商品への適用の検討を再開した。そして現在EPCglobalなどで、個別商品用のICタグはGen2の使い方を工夫して対処すべきか、それとも、HF帯などの別規格を制定すべきかが議論されている。Gen2を使えばタグやリーダーをケースやパレット用と共通にできるメリットがあるが混信防止の技術的問題がある。一方HF帯を使えばタグや機器の共通化に難点があるが、POS端末などでの混信防止は容易だ。個別商品専用ならHF帯の方が適している点が多く、ファイザーなど一部の製薬業者はすでにHF帯のタグを個別商品に付けている。EPCglobalも今年5月になってHF帯のタグの再検討を始めた。

このような問題があるため、ここ12年は世界中の標準化機関や企業で将来の方向付けについて検討が続くだろう。しかし、EPCのタグが今後の流通業界のタグの本命であることに間違いはない。欧米の主な小売業者がすべてEPCタグの適用に真剣に取り組んでいるのに、日本の小売業界では現在のところヨドバシカメラの話しか聞こえてこない。世界の小売市場が一つになりつつあるのに、日本の小売業ははたしてこれでいいのだろうか?

1) 「究極のユビキタス!?」 Tosky’s MONEY (No.304), 2003/02/27

2) 「これでいいのか? 日本の『無線タグ』対応」 Tosky’s MONEY (No.313), 2003/08/13


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