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医学は無力で、自然治癒力だけが頼り!?

酒井 寿紀

さんざんお医者さんの世話になっている私が、このタイトルのようなことを言うのは気が引けるが、最近、ますますこう思うようになった。なぜそうなったのか? 私の体験を以下に記そう。

私のまわりにも、ガンの早期発見のおかげで命拾いした人が何人もいる。したがって、このタイトルは、本当は、「ある種の病気に対しては」を前に付けないといけない。これを付けなかったのは、できるだけセンセーショナルにして読者の目を引こうとする、週刊誌の記事のタイトルにならっただけである。

40度の高熱で、お岩さんのような顔に

今から約10年前、私が60代の半ばだったある日、コンサートの帰りに寒気がしてガタガタ震えがきた。翌日熱を計ると少し熱があったので、近所の医者に行くと、風邪だろうということで解熱剤と抗生物質をくれた。

風邪なら2~3日休んでいれば直るだろうと思っていた。ところが、翌日には熱が39度に上がり、翌々日には40度を超えた。解熱剤を飲んでいるにもかかわらずだ。こんなに高い熱が出たことは記憶にない。しかも全身の力が抜けて、まったく立ち上がれない。これは何事かと、生まれて初めて救急車を呼んで、かかりつけの病院に運んでもらった。

そのうち、全身が赤く腫れ上がってきた。しかも、顔の腫れ方が左右非対称なので、鏡で見るとまるでお岩さんみたいだ。

これだけ症状が顕著ならすぐ原因が分かるだろうと思った。点滴を続けていたら、熱は5日目に下がったので、原因が分かり、それを除去できたのだろうと思っていた。ところが原因が分からないと言う。点滴していたのは、ロキソニンという、解熱、消炎、鎮痛の効果がある対症療法の薬で、原因を除去したわけではないというのだ。

また、入院してから肝機能のGOT/GPTの値が増え続け、10日目には正常値の上限の10倍以上になった。これも、ネオミノファーゲンという薬を点滴していると下がり出したので、てっきり薬が効いたのだと思っていた。ところがこの薬は肝機能全般を改善するもので、これでGOP/GPTが下がるわけではないと言う。退院する時、「まだ正常値よりはるかに高いけど、いいんですか?」と聞くと、「点滴で下がったわけではないので、あとは自力で下げて下さい」とのことだった。

「 原因としては、感染症、血液の病気、免疫システムの暴走の三つが考えられるが、そのどれかは不明です」とのこと。「細菌やウィルスは、分かっているものについてはすべて検査したが、何も見つからなかった。しかし、世の中にはまだ分かってないウィルスがごまんとあるので、感染症の疑いは否定できない」と言う。

原因は分からないが、とにかく直り、もうこれ以上病院にいても仕方がないので退院した。救急車で運ばれてから21日経っていた。

実は退院の2週間半後にフランス旅行に出かける予定になっていた。しかも一部のホテルの予約は、キャンセルができない代わりに料金が安いものだった。私の担当の若い女医さんに、「フランスに行く予定なので、間に合うように治して下さい」と頼むと、「頑張ります」と言って熱心に診察してくれた。おかげで無事にフランスに行くことができ、支払い済みの代金を無駄にしないで済んだ。

病院というところは、徹底的に検査をするが、必ずしもその結果で原因が判明し、それを排除して病気を治すわけではないということがよく分かった。この時も、確かに点滴で症状は軽減したが、これは対症療法に過ぎないので、何もしなくても自然に症状は消えたのかもしれない。

脳梗塞で景色がメチャクチャに

一昨年のある朝、起床時に突然ひどいめまいに襲われた。私は、「良性発作性頭位めまい」という、耳石が剥がれて三半規管の中を動き回るめまいの持病を持っているので、てっきりこれだと思った。これは、命にかかわることはなく、数時間休んでいれば消滅する。エプリー(Epley)法という、頭を一定の順序で振り回すと耳石が元に戻ってめまいが止まる治療法も知られていて、YouTubeでも紹介されている。慣れれば自分でもできるようだ。

ところが、今回のめまいはいつもとちょと様子が違う。景色が、いつものようにシャーッ、シャーッと横に流れず、メチャクチャだ。そして、嘔吐を繰り返した。しかも、この症状が半日経っても一向に変わらない。

手足は普通に動くし、話もできる。しかし、これはもしかしたら脳が絡んでいるかもしれないと思い、昼過ぎに救急車で病院に運んでもらった。

薬で吐き気がおさまると、景色がどうメチャクチャなのか分かってきた。

まず、右目で見た景色と左目で見た景色がバラバラで一致しない。寝ているベッドの前に医師や看護師が大勢来てズラッと並ぶので驚いたが、片目で見ると3人だけだった。食事時間になると、テーブルに皿がズラッと並んだ。しかし、箸を伸ばしても何もない皿がある。要するに、一人が二人に、一皿が二皿に見えるのだ。これを「複視」というそうだ。これが3日間続いた。

この時は、二つの目で見た異なる画像が一つに統合されて、3次元の空間認識ができるということの素晴らしさを再認識した。これは人間に限らず、魚でも、鳥でも、昆虫でも同じだ。

もう一つの症状は、じっと1点を見ていれば視覚は正常なのだが、視線を左に動かすと、景色が揺れ動くのだ。これは退院後もなかなか治らず、完全に治るのに2か月ぐらいかかった。

病院では、入院時にすぐMRIを撮ってくれたが何も見つからないと言う。しかし、2日後に高精細のMRI検査で小さい脳梗塞が見つかった。そして、脳梗塞による「動眼神経麻痺」と診断された。

「治す方法は?」と聞くと、「いったんできてしまった脳梗塞を溶かす薬はありません。脳の真ん中なので手術もできません」と言う。

「では、どうしたらいいんですか?」と聞くと、「早い人は1~2週間、遅い人は半年~1年かかりますが、大体直ります。ただ、中には一生直らない人もいます」とのこと。

脳梗塞の後、リハビリに力を入れている人もいるので、「リハビリとか、早く治す方法はないんですか?」と聞くと、「ありません。普通の生活をして下さい」と言う。

こうして、病院では何もやることがなくなったので、入院して9日目に退院した。2か月後には視覚も大体回復したのでスポーツクラブ通いを再開し、5か月後にはクルマの運転も再開して、すっかり元の生活に戻った。

脳梗塞にもいろいろあるのだろうが、この種の脳梗塞に対しては現在の医学は何もできず、患者の自然治癒力に頼るしかないことが分かった。

後で知ったのだが、発作から4.5時間以内なら薬で脳梗塞を溶かせるという。私の場合、前記の「良性発作性頭位めまい」と区別がつかず、結果としてこの時間を過ぎてしまった。

実は、その半年後にまためまいに襲われ、今回は「良性・・」の方だと思ったが、念のためすぐ救急車で病院に行った。結果はやはり「良性・・」で、病院に着いてしばらくするとめまいがおさまり、1泊して帰宅した。

「前回のことがあるので、今回はすぐ救急車で来ました。しかし、めまいの度に救急車を呼ぶのは大変なので、「脳梗塞」のめまいと「良性・・」のめまいを区別する方法はないんですか?」と聞くと、「素人にはとても区別できないので、遠慮せずにすぐ来て下さい」とのこと。今度再発したときはどうしたらいいのだろうか?

顎関節症に悩まされる

昨年、4か月間ほど顎関節症に悩まされた。顎を動かす筋肉が痛くて、硬いものが噛めないのだ。食べ物によっても大分違い、たとえばせんべいを前歯でかじるのは割と平気だが、キャベツなどの野菜を奥歯で噛み潰すのが痛くてできない。この間は朝の野菜サラダが食べられなかった。

歯医者へ行くと、「普段、上の歯と下の歯をできるだけ離しておくように」と言う。こうしておけば顎関節症にならないのかも知れないが、痛くて物が食べられない状態の解決にはならない。

別の歯医者では、鎮痛薬のロキソニンをくれた。確かにこれを飲むと一時的に痛みはなくなるが、すぐ元に戻る。大分飲んだが、これをずっと飲み続けていいものか、心配なのでやめた。

腰痛になった時ハリがよく効いたので、ハリにも行ってみた。聞くと、顎関節症の患者もよく来るという。施術してもらうとかなりよくなったが、数日で元に戻ってしまった。腰痛の時も1回ではダメなことがあったので、再度施術してもらった。ところがこの時は前回ほど効果がなかった。どうも、ハリは経験と勘の世界なので、当たり外れが大きいようだ。

マウスピースが効く人もいるというので、これを作って、2週間就寝時に着用してみたが、効果がないのでやめた。

万策尽き、野菜が食べられないので、豆腐や煮魚ばかりリクエストして女房を困らせたが、3か月ぐらい経つと痛みが和らぎ始め、4か月後には完全に消えた。

どうも、顎関節症というのは、医者やハリに行ってジタバタしても早く直るものではなく、時間が来ればひとりでに直るもののようだ。

めまいがいつのまにか消える

昨年9月頃から今年にかけて、「良性発作性頭位めまい」とも、脳梗塞のめまいとも違うめまいに悩まされた。雲の上を歩いているようなフワフワした感じが続くのだ。そして「良性・・」のようにたまに起きるのではなく、連日のように起き、長時間続いた。

病院の耳鼻科に行くと、検査をした後、「内耳は問題ないので、原因は頭の方だと思う」と言われ、神経内科を受診するようにとのことだった。そして、「セファドール」という薬を、めまいが起きた時に飲むようにとくれた。

神経内科を予約して受診すると、MRIを撮ることになった。その結果を見て、神経内科の先生は、「頭の中は歳相応に老化しているが、めまいの原因になるものはない。首の動脈の血もちゃんと流れている。めまいの原因はやはり耳だと思う」と言う。

仕方がないので、再度耳鼻科を受診すると、やはり耳には異常がないと言われ、血圧を計って、「立ち上がった時の血圧の低下が大きい。「起立性調節障害」だと思うので、内科を受診するように」とのこと。しかし、今回のめまいは立ち上がった時に起きるわけではないので、この診断は疑問に思った。

その後別の医師から聞いた話によると、「めまいは命にかかわる病気ではないため、真面目に取り組んでいる医師が少ない」とのこと。そういえば、神経内科の医師も、「自分も時々めまいがするが、頭を振ってごまかすか、数時間休むことにしている」と言っていた。めまいとはそういうものか・・・と、ひどい時はセファドールを飲んでしのいだ。

そうこうしている時、たまたま同年代の女性と話していると、「同じようなめまいに苦しんでいたが、1日3回セファドールを飲むようになって、めまいからすっかり解放された」と言う。めまいが起きてから飲むのでは外出中など困るので、私もそうすることにし、毎日飲む量のセファドールを病院で出してもらった。

しかし、 しばらくしてインターネットで、「セファドールは眼圧を上げる恐れがあるので、緑内障の人は要注意」という記事を読んで心配になった。実は、私は緑内障による視野の欠損が進行中で、眼圧を極力下げておく必要があるのだ。

そこで、眼科で眼圧を計ってもらうと、眼圧が正常値の上限の2倍近い値に跳ね上がっていた。こりゃいかんと、めまいの再発を覚悟して、即日セファドールの服用を止めた。ところが、何と不思議なことに、1週間経ち、1か月経っても、一向にめまいが起きないのだ。こうして、とうとう3か月以上経ってしまった。 私の体質が変わり、めまいが起きなくなったことに、セファドールがどれだけ貢献したのかは分からない。少なくとも私は、体質が変わるような効果はまったく期待していなかった。

今回の教訓は、「もう薬を飲む必要がなくなっているかもしれないので、止めても命に別条がない薬は、時々服用を止めてみる必要がある」ということだ。そして、「薬の副作用にはご用心!」ということである。小さい字で書いてある副作用など、読まないことが多い。そして、セファドールの上記の注意は、どの説明書にも書いてあるわけではないので、複数の信頼できる説明書をちゃんと読む必要がある。幸いにして現在は、インターネットで多数の説明書を読むことができる。

さらに昔を振り返ると・・・

以上、最近10年間の体験を挙げたが、振り返ってみると、このような体験は最近に限ったことではない。

30代前半には、ずっと胃の調子が悪かった。いつも会社の医者に診てもらい、何度もバリウムを飲んで胃の透視撮影をした。しかし、器質的には悪いところがないと言われた。最近胃カメラで見ると、古い潰瘍の跡が見えるという。その頃のものだと思うが、当時のX線の透視では見つからなかったようだ。30代の半ばになるとこの症状は自然になくなった。

30代後半には、心臓がおかしくなった。心臓の辺が重苦しく感じられ、何度も病院で診てもらった。心電図の波形が少しおかしいと言われ、カテーテル検査を行うことになった。脚の付け根から心臓の辺まで管を通して、血液を採取して調べるのだ。この時も器質的な異常は見つからなかった。そして、40代に入ると、この症状も自然に消えた。

40代にはずっと耳鳴りに悩まされた。モーターが回ってるような低い音が、耳の中で年中鳴っていた。耳鼻科へ何軒も行ったが、原因も治療法もまったく分からなかった。「またうるさい患者が来た」といやがられた。

ある時、健康関係の雑誌で、「後頭部に磁石を貼っておくといい」と書いてあったので、試してみるとよく効いた。もちろん貼る場所が重要で、ツボの一つなのだろう。それ以来、海外出張に行く時も、忘れずに磁石を持って行くことにしていた。50代以降は、こういう耳鳴りはほとんどなくなったが、たまに起きると今でも磁石を貼っている。

これらはみんな、原因も治療法も現在の医学では分からない、医者泣かせの病気だった。しかし、時が経つと自然に症状は消えていった。

「いい医者」とは?

こうした体験から到達した結論は、「多くの病気に対して、医学はまだまだ無力だ」ということである。同時に、「人間が持っている治癒力はたいしたものだ」ということだ。たとえば上記の脳梗塞の例でも、梗塞で死んだ脳細胞は生き返らないが、時が経つと隣近所の細胞がその代役を果たすようになり、脳全体としては機能を回復するのだ。また、顎関節症も、耳鳴りも、ジタバタせず放置しておいても直っただろう。

したがって、何でもかんでも医者に頼るのはあまり利口ではなく、現在の医学で解決できそうな問題は医者を利用し、そうでない問題は自然治癒を待つか、あきらめるのが、カネの面からも手間の面からも利口なようだ。そういう意味では、医学や医者も、あらゆる機械や道具と一緒だ。使うべき時に使い、使っても意味がない時には使わないことだ。使うべきじゃないときに使いすぎたのは、私の大きな反省である。

しかし、現在の医学で何が可能で、何が可能ではないかを判断するのは、素人には難しい。そのため、医者はそれを明確に患者に伝える必要がある。何度も受診に行くと、あからさまに嫌な顔をされ、もう二度と来てくれるなと、態度で示されたことが何回もある。当時はしょうがない医者だと思ったが、今にして思えば、おかげで時間とカネを無駄にせずに済んだ「いい医者」だったのだ。

逆に、こっちの話をよく聞いてくれ、薬もたくさんくれるが、結局直らない医者は、商売には熱心だが、実は患者のためにならない「悪い医者」だ。患者と健康保険の負担がいたずらに増えるだけである。

(完) 2016年9月


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