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(株)エム・システム技研 「エムエスツデー2014年7月号 掲載        PDFファイル (エム・システム技研のサイトへ)

      

ITの昨日、今日、明日

  

第7回 各家庭に映像アーカイブが・・・映像配信の変遷

 

酒井ITビジネス研究所  代表 酒 井 寿 紀

 

テレビ放送がタイムシフト視聴へ

日本では、1953年にNHKがテレビ放送を開始し、映像(動画)の家庭への配信が始まりました。そして1955年以降、民間のテレビ局が続々と開局し、テレビの全盛時代を迎えました。

テレビ局が配信する番組は、平均的な日本人を対象にして、ニュース、ドラマ、スポーツ中継などの番組を適当に取り混ぜたものです。いわば、1種類の定食しかないレストランのようなもので、視聴者には選択の自由が全くありません。また、視聴時間にも自由度がなく、放送時間に見るしかありません。

ビデオレコーダが普及すると、見たい番組を録画しておいて後で見る「タイムシフト視聴」が一般化しました。これには、記憶媒体としてハードディスクが普及したことも貢献しました。そして、大容量のハードディスクを使って、1週間分の放送をすべて録画でき、番組ごとの予約が不要なビデオレコーダも現れました。

こうして、視聴時間の制約からはかなり解放されましたが、視聴できる番組が放送されるものに限られるのはテレビ放送の宿命です。

 

インターネットでストリーミング配信

高速回線でのインターネットが普及すると、映像コンテンツをインターネットでダウンロードし、パソコンなどで再生するビデオ・オン・デマンドVOD)が出現しました。さらに、ダウンロードの完了を待たずに受信したデータを順次再生する「ストリーミング配信」も現れました。

このストリーミング配信によって、定額で何本でも映画やドラマを視聴できるサービスが米国で始まりました。月額約8ドルで無制限に見ることができるネットフリックスやフールーなどです。フールーは2011年に日本でもサービスを開始しました。

インターネットで配信される映像はパソコン、タブレット、スマートフォン、テレビなどで視聴できます。テレビをインターネットに接続する方法には、セットトップボックスを使うもの、ゲーム機を使うもの、インターネットテレビによるものなどありますが、今後はスマートフォンやタブレットをHDMI(高精細デジタル映像を伝送する規格)ケーブルでテレビに接続する方法が普及すると思われます。この接続を無線化する技術の開発が現在進められています。

こうしてVODが普及すれば、レンタルビデオ店や多チャンネルのケーブルテレビの業界は多大な影響を受けると思います。

 

映像共有サイトの出現

ストリーミング配信の技術を使って、一般の人や企業が投稿した映像を世界中から無料で視聴できるようにする「映像(動画)共有サイト」が現れました。米国で2005年に生まれたYouTubeがその始まりです。

家庭用のビデオカメラで撮影した、わが子やペットの珍場面が多数登録されていますが、そういうものだけではありません。無料のため、著作権がある映画は見ることができませんが、チャップリンなどの古い映画は見ることができます。また、今は亡き3代目金馬や小さんの味わいのある落語も聴けます。

歴史的な出来事の貴重な映像も豊富です。

海外のものでは、1901年のヴィクトリア女王の葬式、1937年の飛行船ヒンデンブルク号の大火災、194112月の真珠湾攻撃の翌日にルーズベルト大統領が議会で行った演説、1944年のパリの市街戦と解放、1963年にケネディ大統領が暗殺された瞬間などです。

日本のものでは、前畑秀子、織田幹雄などのオリンピックでの活躍、1939年に双葉山が安藝ノ海に敗れ70連勝を逸した一番、1960年に浅沼稲次郎が暗殺された場面、1970年に三島由紀夫が割腹自決前に自衛隊のバルコニーで行った演説などです。

著名人の講演やインタビューも多数収録されていて、アーネスト・ヘミングウェイ、ジョン・スタインベック、スティーブ・ジョブズなどの生前の姿に接することもできます。

また、指揮者のトスカニーニ、ストコフスキー、フルトヴェングラーの指揮ぶりを見ることもできます。

その他、パソコンの操作や部品の交換、料理やスポーツのやり方などについての映像を使った解説も豊富です。また、各地の祭りの情景、野生動物の生態などを調べるのにも役立ちます。

映像共有サイトは、自宅でいつでも無料で利用できる映像アーカイブなのです。

 

映像配信の新時代にどう対応する?

テレビ放送は、テレビ局が一方的に押し付ける「プッシュ型」の映像配信です。その視聴者は完全に受け身で、座って眺めているだけで、最近の世界の動きを一通り知ることができ、娯楽番組で楽しく過ごすことができます。しかし、それ以上のことはあまり期待できません。

それに対しVODは「プル型」で、自分で映像を選択する必要があります。

特に映像共有サイトでは、整理されてない玉石混淆(ぎょくせきこんこう)の映像の中から見たいものを探し出すのに手間がかかり、その検索には多少技術や経験が必要です。そして映像の中には、性や暴力を扱ったものも多く、テロ行為を挑発するもの、特定の宗教の神を冒涜(ぼうとく)するものなどもあるので、見る方に自制心と判断力が要求され、未成年者の閲覧を制限する仕掛けも必要です。

このような問題がありますが、映像共有サイトと定額のストリーミング配信を活用すれば、映像の選択範囲が一挙に広がり、視聴時間の制約からも解放されます。したがって、従来のプッシュ型配信だけで満足している人とプル型配信を上手に活用する人とでは大きな差がつきます。

ここで、1つの大きな問題は著作権です。映像共有サイトで公開するためには著作権者の許可が必要です。そのため、最近の映画やテレビ番組は通常見ることができません。これらを見るためには、有料のストリーミング配信を使うことになります。

最近は、新聞でも、ニューヨーク・タイムズ、ウォールストリート・ジャーナル、日本経済新聞などのサイトが有料になり、コンテンツの有料化に対する抵抗が減りつつあるように思います。しかし、見たいコンテンツが有料か無料か事前に分からないことも多いので、無料・有料の映像コンテンツを合わせて検索できるシステムの出現が望まれます。

 

[関連記事]

(a)  酒井 寿紀、「「タイムシフト視聴」のすすめ」新電気、2006年4月号、オーム社

       (http://www.toskyworld.com/archive/2006/ar0604shindenki.htm)

(b)  酒井 寿紀、「ケーブルテレビからVOD」、OHM、2012年5月号、オーム社

       (http://www.toskyworld.com/archive/2012/ar1205ohm.htm)

(c)  酒井 寿紀、「テレビは汎用ディスプレイに?、OHM、2013年12月号、オーム社

       (http://www.toskyworld.com/archive/2013/ar1312ohm.htm) 

  


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