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(株)オーム社 技術総合誌「OHM 2012年4月号 掲載        PDFファイル

 

3GWi-Fi、いずれが主役?

 

酒井 寿紀Sakai Toshinori) 酒井ITビジネス研究所

  

スマートフォンでFMCが復活

固定電話回線と携帯電話回線(現在は第3世代が主流なので、以下:3Gの両方が使える携帯電話は、FMC (Fixed-Mobile Convergence)と呼ばれ、2004年頃から一部でサービスが始まった。固定電話回線との接続には無線LAN(以下:Wi-Fi)が使われるのが普通だったが、端末が高価で種類も少なかったため、一部の企業を除いて一般にはあまり普及しなかった。

その後、2007年にアップルのiPhoneが現れ、2008年にAndroidを使ったスマートフォンが登場して、スマートフォンが隆盛を迎えた。201011月号の本コラムにも記したように、スマートフォンは標準で3GWi-Fiの接続機能を備え、従来の電話と違いデータ通信の世界ではあるが、FMCをごく普通のものにしてしまった(1)

しかし、スマートフォンでのFMCへの対応は通信事業者により大幅に異なる。具体的に見てみよう。

 

三社三様の取り組み

ソフトバンクの孫正義社長は、200911月の新機種発表会で、「ユーザーの携帯利用シーンの半分は自宅」、「さらに公衆無線LANのアクセスポイントの整備が進めば、生活シーンの8割でWi-Fiでつながる時代が来るだろう」、「Wi-Fiが私の出した答えだ」という趣旨の発言をしたという(2)

ソフトバンクが、Wi-Fi接続のためにはNTTから光回線などを借りる必要があるにもかかわらずこういう戦略を取るのは、3G回線の帯域不足で同社が最も深刻な問題を抱えているためだと思われる。同社は公衆無線LANのアクセスポイントの拡充に力を注ぎ、現在20万か所を超えるアクセスポイントを定額サービスの契約者に無料で提供している。

KDDIも公衆無線LANのアクセスポイントの増強に注力し、20123月までに10万か所にするという目標で推進してきた。217日には7万か所を超えたという。

同社は固定網、モバイル網とも自社で提供している利点を生かし、両者を統合したサービスを提供することで、サービスの向上と売り上げの増大を図ろうとしている。同社はこれをFMC型のビジネスモデルと称している。この計画の実現のため、固定回線とスマートフォンを合わせて契約すると、スマートフォンの利用料金を1台当たり最大月額1,480円値引くという。

一方、NTTドコモの山田隆持社長は、200911月の新機種発表会で、「モバイルは移動して使うものであり、Wi-Fiはあくまで補完的なサービスという位置付け」、「あくまで3G(とそれ以降)のネットワークの強化を進めることでユーザーの利便性向上を図っていく方針だ」との趣旨を表明したという(2)

固定網のサービスを直接は提供していないNTTドコモとしては当然のことかもしれないが、他社に比べWi-Fiには力が入っておらず、公衆無線LANのアクセスポイント数も20122月現在8,100か所で、ソフトバンクの20分の1以下だ。また、同社のAndroidのスマートフォンのWi-Fiの設定法や使い勝手に問題があることは、201112月号の本コラムに記した通りである(3)

 

3GWi-Fi、いずれが主役?

最近は、自宅がWi-Fiを使える環境になっている人が多く、勤務先にもWi-Fiの設備がある人が多い。そして、駅、空港、ホテル、レストランなどでもWi-Fiが使える場所が増えている。前記の、「8割でWi-Fiが使える時代が来る」という孫社長の発言は、あながち誇張とは思えない。

いずれにせよ、通信全体で見れば、固定網とモバイル網が共存することになるが、固定網の方がより高速であり、モバイル網に使われる電波は、有限で貴重な資源だ。したがって、「固定網でできることは固定網(+Wi-Fi)で」という考え方が必要だ。

今後はデータ量の多い映像の配信などにもインターネットがどんどん使われるようになる。そして、そこらじゅうを走り回っているクルマもインターネットで接続されるようになるだろう。そうなったとき、「モバイル網はモバイル網でしかできないことだけに」を実現しないと、モバイル網用の電波帯域がいくらあっても足りない。

そして、固定網を有効に使うためには公衆無線LANのアクセスポイントの充実が必要だ。現在は、公衆無線LANを自社端末の拡販の道具にして、他社端末の接続を拒否したり、固定網とモバイル網の抱き合わせ販売でユーザーの囲い込みを図ったりしている事業者がある。しかし、ユーザーから見れば、公衆無線LANはモバイル網とは独立したサービスで、1つの契約で、全世界の公衆無線LANが使えることが理想だ。かつて海外を旅行するときは、世界各国のアナログ電話のアクセスポイントが使えるサービスを利用した。同様のことが、国内・国外を問わず、公衆無線LANでもできることが望まれる。

 

(1) 「新FMC時代の到来!?」, OHM, 201011月号, オーム社 (http://www.toskyworld.com/archive/2010/ar1011ohm.htm)

(2) 「孫社長『Wi-Fiが答えだ』 山田社長『Wi-Fiより3G』 ソフトバンクモバイルとドコモが新サービス」, ITmediaニュース, 20091110

(http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0911/10/news128.html)

(3) 「自分で自分の首を絞める通信事業者」, OHM, 201112月号, オーム社 (http://www.toskyworld.com/archive/2011/ar1112ohm.htm)

 

[関連記事]

(a) 酒井 寿紀、「NTTドコモがやっとWi-Fiに本腰に!」、Tosky's IT Review、2012年7月6日 (http://toskysitreview.blogspot.jp/2012/07/nttwi-fi.html)

(b) 酒井 寿紀、スマートフォンはWi-Fiで!」、OHM、 2013年7月号、オーム社 (http://www.toskyworld.com/archive/2013/ar1307ohm.htm)

   


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