home > Tosky's Archive >

 

(株)オーム社 技術総合誌「OHM 2009年2月号 掲載        PDFファイル

 

 

インターネットでテレビはどう変わる?

 

酒井 寿紀(さかい としのり) 酒井ITビジネス研究所

 

見たいものを見たいときに

最近、世界中の多くのテレビをインターネットで見ることができるようになった。いわゆるインターネット・テレビである。インターネットでの視聴が一般化すると、テレビはどう変わるだろうか? ここでは、パソコンで見ることができるニュース番組を中心に世界の現状を見てみよう。

例えば、米国の“MSNBC TV”のウェブサイトには、最近NBCのテレビで放映されたニュース・クリップ(ニュース番組を構成する映像の断片)が、内容によって分類されて多数登録されている。まず、米国、世界、経済、スポーツ、芸能などに大分類されている。そして、「経済」はさらに、自動車、不動産、小売、金融などに小分類され、「スポーツ」は、野球、サッカー、ゴルフ、テニスなどに分かれている。小分類ごとに40件のニュース・クリップが、簡単な解説付きで登録されているので、自分が見たいものだけを選んで、見たいときに見ればよい。

このようにしてニュースを見れば、テレビ放送で見るように、殺人事件があった家の間取りの説明を長々と聞かされることもなく、自局の歌番組の予告に何回も付き合わされることもない。一般のテレビ放送がテレビ局からの一方的な「押し付け」、つまり「プッシュ型」の情報提供なのに対して、上記のようなテレビのサイトは、視聴者が必要なものだけを選別して見る「プル型」である。「プル型」の情報提供はウェブの大きな特長だ。

CNNABCなどのニュース・サイトでは、ニュースによって記事を読めるものと映像を見られるものがある。例えば、イラクでの記者会見でブッシュ大統領が一人の記者に靴を投げつけられたが、こういうニュースは文字で読むより映像で見たい。一方、数字が多数出てくる経済問題などは、自分のペースで記事を読みながら理解したい。こういう文字情報と映像の使い分けは、新聞もテレビもできず、ウェブで初めて可能になる。

 

国境がなくなる

インターネット・テレビは、全世界で同じものを見ることができる。海外旅行中の人や海外在住の人も、自国にいるときと同じように自国のテレビを見ることができる。

これは、見方を変えれば、日本にいても全世界のテレビを見られるということだ。英語でニュースを流しているサイトとしては、米国のテレビ局のほか、イギリスのBBCITN、フランスのfrance 24、ロシアのロシア・ツデイ、中国の CCTV、カタールのアルジャジーラなどがあり、日本でも見ることができる。

もちろん日本のテレビも海外の出来事を報じているが、やはり現地からの報道は視点が異なるし迫力が違う。例えばアルジャジーラは、ブッシュ大統領に靴を投げつけて拘留されている記者の釈放運動のデモの激しさを生々しく報じていた。またロシア・ツデイの女性リポーターは、グルジアの首都での反政府デモと警官隊の衝突を、警官隊が使った催涙ガスを吸い込んで激しく咳き込みながら中継していた。

このように、インターネットによって、世界中のテレビを見ることができるようになった。しかし、その大半は各国の自国語か英語である。したがって、英語圏の人とそれ以外の人で、インターネットの利用価値がまったく違う。インターネットで、通信については国境の壁がなくなったが、言葉の壁は依然として残っている。インターネットの世界では、非英語圏の「ランゲージ・ディバイド」が大きな問題だ。

 

日本の問題は?

日本のテレビ局も、インターネットでニュースその他の番組の配信を始めている。しかし、そこにはいろいろ問題がある。

まずウェブで提供される情報は「無料」が普通である。海外のニュース映像も、小生が知る限りすべて無料だ。したがって、最近始まった「NHKオンデマンド」で、有料の契約をしないとニュースも見られないのには違和感を覚える人が多いだろう。

日本テレビが提供している「第2日テレ」では、首相の記者会見や著名人のインタビューなどを流している。最近は、ノーベル賞を受賞した益川教授の23分間にわたるインタビューを見ることができ、同教授の人柄がよく分かる。しかし、これはあくまでテレビ放送を補完するもので、これを見ればテレビを見なくて済むというものではない。テレビ局としては、視聴者がインターネットに移ってしまい、テレビを見る人が減っては困るのだろうが、これではニュース・コンテンツの伝達媒体として本格的にインターネットを活用したことにならない。

NHKオンデマンド」やテレビ朝日の「テレ朝BB」では、ニュースを見ることができるが、テレビのニュース番組を初めから終わりまで垂れ流すものだ。こういうものを見たい人も中にはいるだろうが、これではインターネットの特長を生かしているとは言えない。インターネットを使うなら、やはり「プル型」にすべきだろう。

そして、「NHKオンデマンド」は海外では視聴できず、「TBSオンデマンド」や「フジテレビOn Demand」は、報道の基本であるニュース番組を提供していない。

民間放送は広告収入の減少を極力避けねばならず、NHKは広告収入に頼れないという事情は分かるが、視聴者の利便性を軽視したら、結局長続きしないだろう。

 


Tosky's Archive」掲載通知サービス : 新しい記事が掲載された際 、メールでご連絡します。


Copyright (C) 2009, Toshinori Sakai, All rights reserved