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(株)オーム社 技術総合誌「OHM 2008年4月号 掲載        PDFファイル

(下記は「OHM20093月号の別冊付録「ITのパラダイムシフト Part U」に収録されたものです)

 

外圧で開国?・・・日本のケータイ

 

酒井 寿紀 (さかい としのり) 酒井ITビジネス研究所

 

iPhone登場

日本の携帯電話は、通信事業者が中心になって、垂直統合型のビジネスを築いてきた。しかし2007年に、こういうビジネス形態を揺るがすような出来事が海外で2件起きた。

その一つは、アップルによるiPhoneの発売である。iPhoneは、アップルのパソコン用オペレーティング・システムであるOS Xのモバイル版を使ったスマートフォンの一種である。事実上の国際標準であるGSM系の携帯電話網で通話ができるほか、インターネットでメールの送受信やウェブの閲覧ができる。そして、アップルのiPodと同じように音楽を聴いたり映画を観たりできる。

iPhoneの最大の特長は、3.5インチの液晶パネルがタッチスクリーンになっていて、その操作性が非常に洗練されていることだ。大半のボタン操作や文字入力はタッチスクリーンで行われ、物理的なボタンやキーはほとんどない。指先で画面のアイコンに触れて操作を選択でき、指先を画面上で滑らせてアイコンの移動や、画面のスクロールができる。そして、2本の指で画面に触れ、指の間隔を広げたり狭めたりして画面の拡大・縮小ができる。また、iPhoneを縦から横にすれば、画面が自動的に回転する。操作が非常に直感的で分りやすい。1980年代にアップルのCEOのスティーブ・ジョブズはマウスとアイコンでパソコンの操作に革命をもたらしたが、今回は「マルチタッチ」のタッチスクリーンで携帯電話の操作に革命をもたらそうとしている。

iPhoneは、米国ではAT&Tの携帯電話で20076月から使えるようになり、その後、200711月には、英国のO2、フランスのオランジュ、ドイツのT-モバイルでも使えるようになった。これらはすべてGSM系の大携帯電話会社で、20081月には合計出荷台数が400万台を超えたという。日本ではGSMが使われていないため、現在のiPhoneをすぐに使うわけにはいかず、iPhoneが第三世代の携帯電話をサポートするようにならないとダメだ。現在NTTドコモとソフトバンクモバイルがアップルと接触中と言われている。

 

Androidの衝撃

もう一つの出来事は、グーグルが200711月に、Androidという携帯電話用のソフトウェアのプラットフォームを無料で提供すると発表したことである。Androidは、Linuxのオペレーティング・システムとその上で動く一連のミドルウェアからなる。グーグルとしては、Androidを使った携帯電話が増えれば、その携帯電話上でのサービスの提供で広告収入が得られるので、無料でも意味があるのだろうと言われている。

グーグルは、33社の参画を得てオープン・ハンドセット・アライアンスという団体を設立し、世界中の携帯電話に関連する企業をAndroidの世界に呼び込もうとしている。日本のNTTドコモやKDDIもこの団体に加盟している。グーグルは、ソフトウェアの開発環境を整備し、ブラウザ、メール・クライアント、アドレス帳など、携帯電話の主要なアプリケーション・プログラムについては同社自身が提供することによって、Androidの採用を魅力的なものにしている。こうして、グーグルは、Windowsのパソコンと同じようにオープンな世界をAndroidの携帯電話上に構築しようとしている。

Androidを使った端末は、台湾のHTCがすでに試作品を作っていて、2008年後半には製品を出荷する予定だという。また、通信事業者としてはドイツのT-モバイルがAndroidを採用する予定だと言われている。

 

黒船来航で開国?

アップル以外にも、スマートフォンにタッチスクリーンを使うメーカーが増えそうだ。ソニー・エリクソンやサムスンがタッチスクリーンを使ったWindows Mobileの携帯電話を出すという。また、台湾のHTCによるAndroidの携帯電話の試作品もタッチスクリーンを使っている。今後、スマートフォンはiPhone流のタッチスクリーンを使ったものが主流になるかもしれない。そうなれば、日本の通信事業者は、ユーザーの要求に応えるために、競争してこれら海外の携帯電話端末を採用するようになるだろう。日本の端末メーカーは、製品開発の方向付けを通信事業者に頼っていたのでは、海外はおろか日本の市場でのシェアの確保さえおぼつかなくなる。

携帯電話の世界でも、パソコンのように自由にアプリケーション・プログラムを開発したいというニーズは強い。企業向けの、業種や業務ごとのアプリケーションの要求もあるし、個人向けの、趣味や娯楽の世界でのニーズは千差万別だ。一方、現在携帯電話の主力プラットフォームであるSymbianWindows Mobileなどは、パソコンのように十分にオープンになっていない。そのため、Androidを採用する携帯電話のメーカーや、Androidに対抗してプログラムの開発環境をオープンにする企業が出て来るものと思われる。アップルも20082月にiPhone用のプログラムの開発環境を公開する予定だという。このようなオープンな世界が増えれば、通信事業者ごとに通信サービスからコンテンツまで垂直に統合した事業形態は崩れていくだろう。

幕末に黒船の来航で開国を余儀なくされたように、日本の携帯電話も、外圧によって通信事業者ごとの鎖国状態を維持することが困難になると思われる。

OHM20084月号

 

[後記] アップルは20087月に、「iPhone 3G」という第三世代の携帯電話に対応したiPhoneを発売した。これは当初22か国で使えたが、200812月現在79か国に広まっている。日本でもソフトバンクモバイルの携帯電話で使うことができる。また、アップルは20083月からiPhone用のアプリケーション・プログラムの開発ツールの試用版の提供を始めた。200812月現在、これを使って開発されたサード・パーティーのプログラムがすでに1万種類以上流通しているという。

米国の携帯電話事業者のTモバイルが200810月にAndroidを採用したスマートフォン「T-Mobile G1」を発売した。これは台湾のHTCが開発・製造した製品で、3.2インチのタッチスクリーンと、パソコンと同じようなQWERTY配列の小型キーボードを持っている。

 


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