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(株)オーム社 技術総合誌「OHM」2007年7月号 掲載        PDFファイル

(下記は「OHM20091月号の別冊付録「ITのパラダイムシフト Part T」に収録されたものです)

 

 

音楽配信がオープンに!?

 

酒井 寿紀  (さかい としのり) 酒井ITビジネス研究所

 

iPod1億台を突破!

20074月に、アップルの携帯音楽プレーヤiPodの販売台数が全世界で1億台を超えたという。iPodと一口に言っても、独立した二つの製品と一つのサービスからなる。

まず携帯音楽プレーヤiPodがある。運動中とか、リラックスしたいときに聴きたい曲を登録しておけば、その場にふさわしい曲をいつでも聴くことができる。次に、iTunes Storeという音楽配信サービスがある。日本ではサービス開始が遅れたが、20069月現在200万曲が、1150円か200円で配信されている。そして、iTunesという無料ソフトがある。これを使うことによって、音楽をiTunes Storeで買ったり、CDから読み込んだりでき、また、それをiPodに書き込んだり、CDに焼き付けたりすることができる。

アップルはこれらの製品とサービスの組み合わせで、音楽の世界に革命をもたらした。このiPodはこれからどうなっていくのだろうか? 

 

プロプライエタリか、オープンか?

現在は、通常はアップルが提供する上記の製品やサービスを組み合わせないとiPodは使えない。iPodは外界から閉じたアップル独自のプロプライエタリな世界である。

このプロプライエタリな世界は、新市場を開拓するのには大変な威力を発揮した。しかし、音楽配信と音楽プレーヤを企業がプロプライエタリな世界に囲い込めばユーザーの不便を招く。現に、ソニー・グループは独自にプロプライエタリな世界を構築しており、ソニー・ミュージックエンタテインメントの曲はiTunes Storeでは購入できない。

現在、マイクロソフトなども音楽配信についてプロプライエタリな世界を構築している。このようなプロプラエタリな世界を実現しているのは、DRM (Digital Rights Management)という、著作権を保護するために特定の機器でしか音楽を再生できなくする仕組みである。アップルの場合はFairPlayというDRMを使っている。

このDRMについて、アップルのCEOのスティーブ・ジョブズ氏が、20072月に自分の考えを表明した1)。同氏は、「DRMを止め、どの音楽プレーヤでもすべての音楽配信を聴くことができるようにすることが消費者の利益になり、アップルはそうなることを心から望んでいる」と言う。アップルとしては、DRMを使い続け、現在の市場独占の状態を継続させる選択もあるはずだ。しかし、同氏は「アップルがDRMで音楽プレーヤの市場を独占しようとしているというのはまったくの誤解だ。われわれが追求しているのは、よりよい音楽の世界であって、カネではない」と言う。

そして、ジョブズ氏は「インターネットでの音楽の配信に当たり、レコード会社がアップルに違法コピーに対する保護を強く要請したので、解決策としてDRMを採用した。しかし、現在最も普及しているiPodに格納されている音楽で、iTunes Storeから購入したものは3%に過ぎない。したがって、残りの97%は保護されてなく、どのプレーヤでも聴くことができるので、DRMにたいした意味はない」と言う。

また、同氏は「DRMのライセンスを競合他社に提供することによって、他社のプレーヤでもアップルの音楽配信を利用できるようにすることも考えられる。しかし、DRMをライセンスすると多くの人にその秘密を開示することになり、そうすればその秘密は必ず漏れる。ひとたび漏れれば、それはインターネットであっという間に広まり、DRMのカギを開けるソフトが無料でダウンロードできるようになる」と言う。

そして、ジョブズ氏は「DRMのない世界になれば、音楽配信会社や音楽プレーヤのメーカーが新規にこの市場に参入し、優れた製品やサービスを提供しようとするので、結局レコード会社にとっても得策なのだ」と主張した。

 

EMIが爆弾発表!

このジョブズ氏の提言に応える形で、20074月に英国のレコード会社のEMIが衝撃的発表をした2)。従来、EMIiTunes Storeで販売する曲には、アップルのFairPlayが適用されていた。しかし、同社は同年5月以降、音質と価格を上げ、そのかわりDRMをはずした曲をiTunes Storeを皮切りとして、他の音楽配信にも提供するという。もはや、iTunes StoreEMIの曲を聴くのに、必ずしもiPodはいらなくなる。

このEMIの発表に同席したジョブズ氏は、本発表を歓迎して、「EMIが発表した、DRMなしの音楽の提供は、ディジタル音楽革命の次の大きなステップだ。アップルはすべてのレコード会社に同様にすることを提案する。2007年末までには、iTunes Storeの曲の半分はDRMなしになるだろう」と述べた3)

ジョブズ氏も、DRMを止めれば、iPodの売り上げが減るおそれがあることは十分承知しているはずだ。しかし同氏は、プロプライエタリな世界に永久に囲い込もうとしても不可能で、いずれはオープンにせざるを得ないだろうと考えているのだと思う。そして、目先の利益を追求することより、音楽の世界に革命をもたらすことに、より力を入れたいという考えのようだ。それは、一企業の経営者としての短期的な評価より,真の市場開拓者としての評価をより重視することでもある。

他のレコード会社と音楽配信会社の対応が注目される。

OHM20077月号

 

[後記] 20078月にユニバーサル・ミュージック・グループもDRMなしの音楽配信の試行を始めた。ただし、iTunes Storeはその対象からはずされた。ユニバーサルはアップルが強くなりすぎるのを警戒したのではないかと言われている。そして同年12月、ワーナー・ミュージック・グループもアマゾンの音楽配信サービスでDRMなしに踏み切った。また、20081月にはソニーBMGミュージック・エンタテインメントも条件付でDRMを削除した。こうして4大レコード会社がDRMなしの音楽配信に向かい、中小のレコード会社もこの方向に進んでいる。したがって、ここで取りあげたスティーブ・ジョブズ氏の主張は、今や実現しつつある。

なお、上記のように、アップルは当初DRMなしの曲の価格を標準より高く設定していたが、200710月に標準価格に戻した。

 

参考文献

1) Steve Jobs, “Thoughts on Music”, Apple, February 6, 2007

(http://www.apple.com/hotnews/thoughtsonmusic/)

2) “EMI Music launches DRM-free Superior sound quality downloads across its entire digital repertoire”, EMI Press Release, 2 April, 2007

(http://www.emigroup.com/Press/2007/press18.htm)

3) “EMI, Apple partner on DRM-free premium music”, CNET News, April 2, 2007

(http://news.cnet.com/2100-1027_3-6172398.html)

 


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