home > Tosky's Archive > Archive 2007年 >

 

 

(株)オーム社新電気」2007年2月号 掲載        PDFファイル

最新 家電事情

 

もう辞書を買う必要はない?

酒井 寿紀

 

インターネットで辞書が無料に

昨年11月に安倍首相が公邸に引っ越した.引越しに当たって,東京・渋谷のデパートで衣類などを買い,書店で辞書を買う姿がテレビで放映された.公邸にも辞書を一式そろえておきたいと思われたのだろう.一国の首相として,正しい言葉を使おうとする心がけは大変結構なことだ.しかし,テレビ向けのパフォーマンスは別にして,今や印刷物の辞書を買う必要はあるのだろうか? 私も従来の習慣でまだ印刷物の辞書を使うこともある.しかし,最近はだんだんインターネットで無料の辞書を使うことが増えた. 

国語辞典としては,Yahoo!のポータルサイトで小学館の大辞泉と三省堂の大辞林が使える.どちらも20万語以上を収容した本格的な国語辞典だ.また,@niftyBiglobeなどのポータルサイトでも大辞林が使える.

英和・和英辞典としては,Yahoo!のサイトで小学館のプログレッシブ英和辞典などが使え,@niftyBiglobeのサイトで三省堂のエクシード英和辞典などが使える.

米国ではどうだろうか? “The American Heritage Dictionary of the English Language”Websterがインターネットで無料の辞書を提供している.英語の発音を音声で聞けるほか,語源の詳しい説明もある.Dictionary.comというサイトでは複数の辞書の検索結果が同時に表示されるので便利だ.また,Yahoo! EDUCATIONのサイトでも “The American Heritage Dictionary”が使える.

 

そしてその影響は?

このように,日本でも米国でもインターネットで辞書が無料で使えるようになった.パソコンのブラウザを立ち上げておけば,いつでも必要な時に辞書を引くことができる.印刷物の辞書のように場所をとることもない.もはや,印刷物やCDの辞書は要らなくなった.省資源,省エネ上も結構なことだ.

したがって,今後印刷物やCDの辞書を販売して収入を確保するのは難しくなる.インターネットの無料の辞書は,広告料収入か,ポータルサイトでの客寄せの道具としての使用料でビジネスを成り立たせなければならない.そのため,辞書の出版社のビジネス形態はガラッと変わるだろう.そして,出版社の仕事は形が変わっても残るが,印刷会社やCDの制作会社は仕事自体が減ってしまう.

従来,デスク上に置いておいてしょっちゅう使う辞書は小さくハンディーなものがよく,一方,用例や語源を調べたいときは重くてかさばっても詳しい辞書を必要とした.そのため,大小各種の辞書にニーズがあった.しかし,インターネットで検索するときは大きい辞書でも扱いに困ることはない.大は小を兼ねる.したがって,小さい辞書の必要性は今後なくなるだろう.

そして,このような傾向はすべての事典類に広がっていく.今後は,辞書・事典類を作る方も使う方も,新しい時代の流れに対応していかないと,世の中から取り残されてしまいそうだ.

(酒井ITビジネス研究所)

 


Tosky's Archive」掲載通知サービス : 新しい記事が掲載された際 、メールでご連絡します。


Copyright (C) 2007, Toshinori Sakai, All rights reserved