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(株)オーム社 技術総合誌「OHM」2007年1月号 掲載        PDFファイル

(下記は「OHM20093月号の別冊付録「ITのパラダイムシフト Part U」に収録されたものです)

 

いいことばかりではないWeb2.0

 

酒井 寿紀  (さかい としのり) 酒井ITビジネス研究所

 

最近、「Web2.0」という言葉が新聞、雑誌を賑わしている。情報の発信者から受信者へ一方通行だったウェブが、ブログ、SNS (Social Networking Service)、動画投稿サイトなどの出現によって双方向になり、一般ユーザーがどんどん情報を発信するようになったという。こうして、一般ユーザーの経験や知識を動員して問題を解決することができるので、Web2.0は極めて大きい可能性を秘めていると言われる。そうかもしれない。しかし、Web2.0はいいことだけなのだろうか?

 

ブログはゴミの山

ブログ(blog)とはweb logの略で、これを使うことによって簡単に情報を発信できる。本格的なウェブサイトを立ち上げるにはそれなりの知識が必要だが、ブログにはそれがいらない。そのため、ブログが急速に普及しつつある。それは結構なのだが、ウェブの情報を検索エンジンで捜すとき、価値のないブログが検索結果の上位を占めて、目的のサイトがなかなか見つからず、いらいらすることが多い。

先日も、最近できたあるショッピングモールの情報を捜したところ、検索結果の上位20件中8割がブログだった。その中身を覗いてみると、「今日はXXへ行ってきました」というたぐいのものばかりで、有益な内容はほとんどない。一行だけというものもある。役に立たない写真をベタベタと貼り付けたものも多い。内容がないわりには広告がやたらと多い。広告料稼ぎが目的なのだろう。

これは一例だが、このたぐいのブログが世の中に氾濫している。読みたくないブログは読まなければいいのだが、問題はこのようなブログによって検索が妨害されることだ。元々、ウェブは玉石混交の世界で、ウェブを活用するには石の中から玉をえり分けなければならない。ところが、ブログの出現によって石ばかり増え、玉を捜すのが宝探しのように難しくなってしまった。そのため、検索エンジンのgooにはブログを除外してウェブを検索する「ブログフィルタ」という機能が用意されている。1) 今後はこういう機能に対する要求が高まるのではなかろうか?

 

SNSはギャルのたまり場

SNSの会員になって、参加したいグループに加盟し、自分の趣味などを公開しておけば、気が合いそうな人を見つけて友達になり、情報を交換することができる。世界最大のSNSであるMySpaceは、2003年に設立され、20068月には会員が1億人を超えたという。同年11月からは日本語版のサービスも始まった。2)

小生もMySpace20068月に参加してみた。小生は趣味で水彩画を描いているので、「Watercolor Fan Club」というグループに入った。このグループの会員の約8割は女性で、20代、30代の人がその8割を占めている。

これはごく一例に過ぎないが、20代の若い女性が占拠しているグループが多いようだ。自分の水着姿の写真をベタベタ貼り付けて喜んでいる。どうも我々が足を踏み入れる世界ではないようだ。

小生は、ウェブが普及しだした1996年に日本語と英語のサイトを立ち上げ、自分が描いた水彩画などを掲載して、日本と米国のYahoo! に登録した。すると、日本人からはほとんど反応がなかったが、海外からは何件もメールをもらった。そのうちの一人とは今でも時々メールを交換している。しかし、現在のSNSにこういう展開を期待するのは難しいようだ。

 

動画投稿サイトは悪趣味な愉快犯の集まり

動画投稿サイトではYouTube(ユーチューブ)が最大である。3) 20055月にサービスが始まり、20066月には1日に1億本の動画が閲覧されるようになったという。4)

その実態を紹介しよう。テレビ放送のハプニング・シーンが多数登録されている。ベテラン・アナウンサーが言い間違えて、とんでもない言葉を発してしまう場面、女性アナウンサーが放送中に声が出なくなり、四苦八苦している場面、等々。これらの中には日本人が投稿したものも多い。内容は法に触れない限り何でもいいというのが動画投稿サイトの実態だ。

くだらない映像は見なければいいのだが、YouTubeのデータがインターネット接続業者であるインターネットイニシアティブ(IIJ)の日米回線を流れるデータの1/6を占めているというから驚く。5) 動画の情報量は、テキスト情報に比べ桁違いに多いので、インターネットのパイプを詰まらせてしまうおそれがある。

 

新技術はつねに悪用される

もちろん、ブログにも有益なものもあるし、動画投稿サイトにも、一般のメディアでは見られないイラク戦争の前線の映像のような貴重なものもある。だが、ここに記したようなものが多いのが、今を時めくWeb2.0の実態である。

しかし、例えば自動車の発明者は、暴走族や自動車強盗の出現、カーセックスの流行を予想しただろうか? 新技術はつねに発明者の想像を超える使い方をされる。そして、新技術が安くなり一般大衆に普及すれば、使われ方が低俗化するのは避けられない。テレビの普及が「一億総白痴化」を招くと言われたのもその例だ。Web2.0もこうした道を歩みつつある。したがって、社会全体としても個人としても、Web2.0の利点を最大限に生かすとともに、それによる被害を最小限に抑えるよう努める必要がある。

OHM20071月号

 

[後記] 単にユーザーが不便を感じるだけでなく、犯罪などを招くおそれがある場合は何らかの法的な規制が必要になることもある。一例として、米国ではSNSの不適切な使用による被害から未成年者を保護するため、20081月にMySpace49州の司法長官が、SNSが実施すべき事項について詳細に取り決めた。

 

参考文献

1) 「詳細検索(検索オプション)」、goo > ヘルプ (http://help.goo.ne.jp/help/article/822/)

2)  “MySpace”   (http://www.myspace.com/)

3)  “YouTube”   (http://www.youtube.com/)

4)  “YouTube serves up 100 million videos a day online”, USA Today, 7/16/2006

(http://www.usatoday.com/tech/news/2006-07-16-youtube-views_x.htm)

5)  渡辺 聡、「Newsweek国際版『Japan Too, YouTube?』の補足」、CNET、ブログ、2006/08/30

(http://japan.cnet.com/blog/watanabe/2006/08/30/entry_newsweekjapan_t/)

 


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