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オーム社「Computer & Network LAN20042月号 掲載   PDFファイル 

(下記は「OHM20093月号の別冊付録「ITのパラダイムシフト Part U」に収録されたものです)

 

草の根レベルのグローバル化が始まる

 

酒井 寿紀  (さかい としのり) 酒井ITビジネス研究所

 

インターネットの世界の一つの実態

私は数年前から、英語のウェブサイトを開いて拙い水彩画などを掲載しているが、その一つの目的は、こういうことをすると何が起きるのかを知りたかったためである。

アクセス記録を見ると、実にいろいろな国の人が見ている。たとえば、セイシェル、コスタリカ、キルギスタンなどの国でも閲覧されている。あるときアルーバという国からのアクセスが記録されていた。知らない国だったので調べたら、カリブ海にある人口7万人の小さい島国だった。

難しい芸術論を吹きかけられて困ったこともある。メールアドレスが「.com」だったので、はじめはアメリカからだと思っていたが、しばらくたってメキシコの女子学生だと分かった。自分から名乗らない限り、国籍も性別も年齢も分からないのがこの世界だ。国籍は発信時刻の時差から推定するぐらい、性別は名前から推定するぐらいで、年齢に至っては皆目見当がつかないことが多い。

DearHelloHonored Sirなど、いろいろな書き出しで始まるメールをもらったが、知らない人にいきなり“Hi”と呼びかけられると、日本人としては違和感を覚える。いずれにしても、日本人に比べれば、遠慮なく言いたいことを言い、聞きたいことを聞いてくる人が多い。日本人は欧米人に比べるとやはりかなりシャイなようだ。

アメリカの女性が、自分も絵や小説や詩をウェブに載せたので見てほしいと連絡して来たことがある。インターネットの技術的なことはまったく分からないので息子さんに助けてもらっているのだという。考えてみれば、電話やテレビの原理を知らなくても電話をかけたりテレビを見たりしているのだから、インターネットがどうなっているかを知らなくても、それをどんどん使おうとするのはごく当たり前なことだ。

この女性が、ある日突然、自分がデザインしたアクセサリーが日本の女性に似合うと思うので日本で販売したいと言ってきた。そして、日本のデパートに売り込もうとウェブで調べたところ、英語のページのあるデパートがまったくないので困ったという。

このようにインターネットの世界では、大企業や学術団体のグローバル化とは別に、いわば草の根レベルでのグローバル化がどんどん進んでいる。そして、この新しいグローバル化の流れが、今後、新しい情報の流通や商売の形態を切開いていくことになると思われる。

 

草の根レベルのグローバル化がもたらすもの

では、このような草の根的なグローバル化は、今後どのような問題を引き起こすだろうか?

<小さい国や発展途上国の方が有利に>

インターネットでは英語が公用語で、海外との連絡は普通すべて英語で行われる。しかし、日本人の英語の力は残念ながらあまり高くない。それは日本が先進国となった大国で、日本に住んでいる限り、日常ほとんど英語を使う必要がないからである。

それに引き替え、小さい国や発展途上国の人はそうはいかない。これらの国では、最新の技術や経済の問題を勉強しようと思ったら、英語などの本を読むほかない。したがって、これらの国の人は英語に慣れていて、インターネットの英語の世界にも抵抗なく入れる。

そのため、日本のような非英語圏の大国は、インターネットの世界では大きなハンディキャップを背負うことになる。

<個人が大企業と同格に>

私は個人で「.com」の付くドメイン名を取得してウェブサイトを開いているが、こうするとインターネット上は世界中のどんな大企業とも同格になる。個人のサイトでも、閲覧者が捜している情報が掲載されていれば、Yahoo! などの検索エンジンは大企業のサイトと同格に扱ってくれる。

したがって、個人が自分の考えを公表したり、商品を売り込んだりすることが飛躍的に容易になった。そして、個人の方が企業や団体より制約が少ないから、直接全世界を相手に、自由に情報の発信や商売を始められる。

<法規制が同じレベルに>

性表現の自由や薬品の販売は、国によって法規制が大きく異なる。しかし、どんなに戒律が厳しいイスラム圏の国でも、インターネットを全面的に禁止しない限り、ネットでポルノの写真を見るのを防ぐことは難しい。また、日本のように薬品の販売の規制が厳しい国でも、麻薬のようにその購入や所持まで厳しく規制しない限り、販売が自由な国からいくらでもネットで購入できる。

そして、これらの情報の提供や商品の販売が大企業だけによって行われるのなら、まだ取り締まる方法もあるが、個人によってどんどん行われるので、取り締まるのは極めて難しくなる。したがって、国際的に同じレベルの規制でなければ、規制の意味は薄くなる。

このような背景から、今後は各国で規制レベルが統一される方向に向かうだろう。

Computer & Network LAN20042月号

 

[後記] ある原稿を執筆するに当って、起業後間もない米国の、某ベンチャー企業の名前の読み方が分からなかったので、問い合わせのメールを送ったところ、数時間で的確な回答が返ってきた。しかし、考えてみれば、「.com」のアドレスでメールを受信すれば、世界中のどこから送られてきたのか分からず、また相手が個人なのか大企業や大報道機関なのかも分からないのだから、これは別に驚くことはないのだ。インターネットの世界は真にグローバルなのである。

 


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