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オーム社「Computer & Network LAN」2004年12月号 掲載       PDFファイル 

(下記は「OHM20091月号の別冊付録「ITのパラダイムシフト Part T」に収録されたものです)

 

おとなしすぎる(?)日本の消費者 ・・・音楽の著作権保護について

 

酒井 寿紀  (さかい としのり) 酒井ITビジネス研究所

 

日本のiPodは半身不随?

アップルの携帯音楽プレーヤiPodの販売が好調である。200111月に発売され、20047月には全世界の累計販売台数が370万台に達した。日本でも20047月に発売され、発売日には銀座の直営店の前に約1,500人の行列ができた。

しかし、iPodの最大の特長である、10.99ドルという安さで、インターネットを使って音楽ソフトをダウンロードできるiTunes Music Store” (現在の名称は “iTunes Store”) というしかけは、2004年末現在日本では使えない。これは、20034月に米国でサービスが始まり、同年6月にはイギリス、ドイツ、フランスで、200410月にはさらに他のEU 9か国でも使えるようになった。20048月末にはダウンロードされた曲数が累計12,500万曲に達した。このしかけが使えないiPodは、日本ではまだ半身不随である。

どうして日本ではダメなのだろうか? iTunes Music Storeでダウンロードした曲は、何枚でもCDにコピーすることができる。ところが日本のレコード会社は、ここ23CDのコピー防止に力を入れてきた。20023月に、エイベックスが「コピー・コントロールCD」という、パソコンなどでは読んだり再生したりできないCDを発売し、多くのレコード会社がそれに続いた。今や日本は、音楽の著作権保護に関しては世界最先端を行っている。

一方でCDのコピー防止策を推進し、同時にCDを何枚でもコピーできるiTunes Music Storeの営業を認めることは、確かに自己矛盾である。しかし、このコピー・コントロールCDと言われるものに問題はないのだろうか?

 

「私的使用のための複製」は正当な権利

私ごとで恐縮だが、小生はモーツァルトが好きで、特にそのピアノ協奏曲の20番、24番、27番などの、緩徐楽章である第2楽章が好みだ。そこで、これらの楽章だけを収めたCDを自分で作って、寝る前に気分を休めるために聴いている。死ぬときもこれを聴きながら死ねたら最高だと思うが、そのときになったらそれどころではないかもしれない。

このように自分で使うためにCDをコピーするのは、日本の著作権法で「私的使用のための複製」として認められている。米国の著作権法も「fair use」として認めている。ところが、日本のコピー・コントロールCDなどのコピー防止機能は、著作権保護の名のもとにこの正当な権利を奪ってしまう。

技術的に可能であっても、法律で禁じられていることはやってはいけない。例えば、日本の道路で、時速160キロで車を走らせてはいけない。しかし、技術的に可能で、法律も認めていることを行うのは国民の権利である。米国では、2001年に一部のレコード会社がコピー防止機能付きのCDを出したところ訴訟が起きた1)。また消費者の正当な権利が損なわれると問題提起する議員も現れた2)。そのため、米国ではコピー防止CDを本格的に採用するレコード会社は現れていない。

 

コピー防止CDは規格がない世界

全世界で使われている音楽CDには統一規格があり、その規格に適合したCDはすべてのCDプレーヤで再生できることが保証されている。ところが、コピー防止CDはこの規格を満足せず、またいろいろな方式が存在するため、再生を保証しているCDプレーヤがない。それどころか、規格外のCDを無理に読もうとするため、プレーヤの寿命を縮め、中には一部の機器を壊してしまうものもあった。

そして、CDの販売会社は再生できなくても責任を取らないので、問題が起きたときのリスクはすべて消費者が背負うことになる。

 

「全国の消費者よ、団結せよ!」

確かに、音楽の著作権保護は重要である。しかし、消費者の正当な権利の保護も同じように重要だ。そして、今後も著作権保護の新技術はいろいろ出てくるだろうが、あい反するこの2つの要求を完全に両立させる技術などないだろう。したがって、どこかでバランスを取らざるを得ないのだが、日本の現状は、著作権保護の側、つまり企業側に比べて、消費者側が弱すぎるように思う。少なくとも、コピー防止機能にもきちんとした規格があり、CDプレーヤが再生を保証してくれなければ、消費者はたまったものではない。

エイベックスとソニー・ミュージックエンタテインメントは、20049月に相次いでコピー・コントロールCDからの撤退を発表した。日本にも見直しの時期が来たようだ。フランスでは、20048月に消費者グループがレコード会社のEMIなどに対し、コピー防止CDによって消費者の正当な権利を侵害されたと訴訟を起こした3)。日本の消費者団体も、今後はこういう問題にもっと力を入れてもらいたい。国民の代表である国会議員や、一般大衆の味方であるべきメディアも、もっと消費者の声なき声を取りあげるべきだ。

そして、消費者はあらゆる機会に自分たちの正当な権利を主張する必要がある。最近はあまりはやらないが、マルクス−エンゲルス流に言えば、「全国の消費者よ、団結せよ!」 それが、日本が音楽後進国にならないために不可欠であり、ひいてはレコード会社のためでもある。

Computer & Network LAN200412月号

 

[後記] コピー・コントロールCDは、エイベックスとソニー・ミュージックエンタテインメントの撤退以降、順次姿を消していった。そして日本でも、20058月にiTunes Storeのサービスが始まった。このように音楽については、著作権保護のための不都合は改善されつつあるが、映像については同様の問題がいまだに続いている。

 

参考文献

1) “Lawsuit targets copy protection”, CNET News, September 7, 2001

(http://news.cnet.com/2100-1023-272784.html)

2) “Lawmaker: Is CD copy-protection illegal?”, CNET News, January 4, 2002

(http://news.cnet.com/2100-1023-801582.html)

3) “Lawsuit challenges anti-piracy technology” (by Associated Press), USA TODAY, August 25, 2004

(http://www.usatoday.com/tech/news/techpolicy/2004-08-25-france-cd-suit_x.htm)

 


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